家庭医の学習帳

千葉県のクリニックで子どもからご高齢の方を日々診療。心療内科・家族支援にも力を入れています。日々考えたことや勉強したことを綴ります。

公認心理士国家試験に合格しました

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公認心理師国家試験に合格しました。

 

昨年心療内科で1年間学び、もっと心理学や心理支援を深め診療に活かしたいと考え受験に至りました。せっかく勉強するならと、理解を深めるためにオンラインで予備校の授業も受けたりしました。

 

仕事しながらの勉強の大変さに国家試験を受けようとしたことに後悔したこともありますが、振り返るとたくさんの学びがあり、充実した期間でした。

 

何よりの収穫は、心理士について自分が狭い範囲で解釈していたことに気がつき、さらに臨床心理学と家庭医の親和性を強く感じたことです。

 

心理士というと心理テストや心理療法を専門的に行い、支援対象は精神疾患が中心との印象がありましたが、それだけではありません。

 

臨床心理学では心理面だけ切り取るのではなく、生物・心理・社会モデルを基本理論の一つとし、心と体(病気)と生活のすべてはつながっていることを何度も強調されていました。

 

ここでいう病気は精神疾患はもとより身体疾患も含まれ、がんや脳血管障害などはもちろんのこと、生活習慣病といったより身近な疾患の心理支援まで含まれます。

 

また、公認心理士では特に「多職種連携」を強調され、精神科医療以外の医療現場わ医療機関外へのアウトリーチによる「地域包括ケア」「予防」「教育」へのさらなる関与が期待されていることを感じました。

 

つまり、病気の種類に限定されないすべての病める人、病気が無くても迷える人、さらには人の成長のために心理学を活かすというのが臨床心理学であると。

 

そして、それは家庭医のスタンスにも非常に近いものと思います。普段プライマリ・ケアの現場で働いていると、心理支援を行う専門家が周囲にあまりおらず困ることが多くありました。

 

プライマリ・ケアの現場と公認心理士双方にニーズがあるならば、今後双方の架け橋にもなれたらと思います。とはいっても資格取得はあくまで入り口。学びたいこともまだまだたくさんあるので、日々精進です。

 

それと、もう一つご報告です。

 

プライマリ・ケア連合学会のメンタルヘルス委員の役割を今年度から拝命いたしました。プライマリ・ケア領域におけるメンタルヘルス領域についてもっと深め、伝えていきたいです。

非言語コミュニケーションを診察に活かす

  
先日勉強会で「非言語コミュニケーション」が話題になり、とても面白かったです。
 
コミュニケーションの上での言葉以外の重要性はメラビアンの法則などでも指摘されていますが、診療も同じで、患者さんにとっていかに居心地の良い空間を言葉以外でも演出するかが大切です。
 
非言語メッセージの基本的なところでは、声のトーン・ボリューム、話の早さ、見た目などがあります。勉強会で話題になった興味深いものとして、
 
・物理的距離:距離が近いと不安な方はあえて椅子を遠く置く。逆に、心の距離を感じる方やうちとけにくい方はあえて椅子を近く置く。自由に動かせる椅子をあえて置くことで、自在に距離感を作る工夫も。
 
・障害物:距離を作りたい場合に患者さんとの間にあえて聴診器を置く。また、患者さんが鞄を前に抱えているときは距離を置きたいと思っているので、鞄を無理に置かせないことも大切。
 
・時間帯:夕方の時間は疲れもたまって情緒的になりやすい一方、朝の時間は冷静になりやすい。話が長くなりやすい方や複雑な方は一番最後の時間帯に来てもらうように促しやすいけれど、朝の時間の方が案外冷静に話酢ことができる。
 
距離感、障害物、時間帯、なるほどと思いながら、これらをうまく使いながら「患者さんが安心していられる空間」を意識していきたいと思いました。
 
皆さんはどうされているでしょうか?
 
※写真は建物と滑り台が一体となった横浜のUNIQLO PARK。お洒落だけでなくハマる構造で、我が子が気に入りすぎて炎天下の中、2時間ばかり滑っていました。

トイレトレーニングについて

8月入って我が子がトイレトレーニングをはじめました。

最初数日は全くうまく行かず、本当に大丈夫かと思ったり、心折れそうにもなりました。それでもめげずに続ける中、最初にトイレでできた時の感動、自分から「トイレに行く」と言った時の感動は忘れられません。今は自分からトイレに行けるようになりました。

トイレを支えてくれたのは最近はまっているパウ・パトロール。好きすぎて家族みんながそれぞれ役割があります。笑 パウ・パトロールのシール欲しさに最初はトイレを頑張るようになってくれました。

外来でもお母さんにトイレの相談を受けることもありましたが、トイレトレーニングはしつけのいろんな要素も詰まっていて難しいし、本当に色々な心配や考えにさせられますね。

この2週間、オムツが外れたことで急に成長したように感じます。

※写真は妻が100均の防水シートを加工してチャイルドシート・ベビーカーを強化したものです。何回かこれに助けられました。

家族志向のプライマリ・ケア輪読会(2022年)「5章 日常診療への家族の参加」質疑応答まとめ

今年も亀田ファミリークリニック館山の専攻医の皆さんとの家族志向ケアの教科書『家族志向のプライマリ・ケア』の輪読会に指導医として混ぜていただいています。

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本を読みながら皆さんから出た質問に答えることをしていますが、診療現場での具体的な困りごとがわかったり、結構むずかしい質問も出たりと私自身もとても勉強になります。

先日は「5章 日常診療への家族の参加」の部分を扱いました。質疑応答のところをまとめています。

 

Q)子どもが欲しいけれど思っているが、パートナーに相談してもそれどころじゃない突っ張ねられ悩んでいる妻。どのように相談に載ったら良いか?

子どもの話は結婚前からもともと話していたのか、話していたけれど途中から相談できなくなったのかで大きな違いがある。まずは夫婦それぞれの子育てへの認識を確認する。

また「相談した」といっても実際にどのようなやり取りをされたか、普段からのコミュニケーションパターン(家族の機能面)を確認することも重要。妻としては大事なこととして相談したつもりでも、それが夫に伝わっていない可能性もあるし、そもそもどのようなコミュニケーションを夫婦でとるのかを確認することですれ違いの原因を確認することができる。

 

 

Q)本に「家族全員から家族図と家族歴を得ることによって時間が節約できる」とあるが、家族全員がいるほうが家族が忖度してしまって情報を得られにくいのではないか。

いろんな人がいたほうが、わからない情報が少なくはなるので節約にはなる。確かに、家族間葛藤が強かったり、未解決の問題がある場合は家族がいるから話しにくかったり、本当のことを言えないこともあるかもしれない。

しかし、その際に伝わる非言語メッセージ(俯く、無言になる、など)も大事な情報である。また、第三者である医療者がその場でうまく誘導することで、家族だけでは話せない内容を話し合い、それぞれの理解を深めることやそれ自体が治療効果を持つこともある。

 

 

Q)家族の情報も家族メンバーによって見方が異なることは多々ある。その際に、家族構成員それぞれの家族図を作るのか、それとも家族全体の家族図を作るのか。

結論からすると、家族全体の家族図を書く。家族図には事実内容の記載と関係性の記載の主に二つあるが、事実内容(年齢・病気・ライフイベントなど)は一つなので、家族それぞれで見方が異なりやすいのは関係性の記載のところ。関係性のところは各々の家族メンバーの視点も踏まえた上で、どのようにアセスメントして書くかである。

ただ、関係性はお互いへの見方の違いも含めてどのような関係かを評価して書けば良い。例えば、一方が関係が良いと思っていてももう一方が距離を置きたい場合、関係性が良いとは書けず、すれ違っているとなるので何かしらの評価ができる。

家族図はあくまで「家族全体の」家族アセスメントのツールの一つであり、事実を書きながらも適宜アセスメントしながら書いていくと良いし、仮説が違かったらまた書き直すくらいに思ったら良い。

 

 

Q)家族で面談しないほうが良いのはどのような事例か。

実際に明らかに一方からの家庭内暴力がある際に、暴力がエスカレートする可能性があるので原則行わないほうが良い。また、家族内葛藤が強く家族が来ても話し合いができないことが続く場合や、一方の苦痛が深くなる場合は個人面談や並列面談に切り替えることも考慮する。

 

 

Q)診察室で夫婦の一方が理不尽に見える攻め方をもう一方にした際にどうすれば良いのか。

必ずしも攻めることは悪いことではないし、それがその夫婦のコミュニケーションパターンであることもあるため、受け取り手に葛藤や苦痛が少ないようであれば、問題として扱うかを一旦考える必要がある。

受け取り手に苦痛や葛藤がある場合は扱うことも考慮するが、怒りは二次感情でその背景には不安、苦痛、悲しみ、恐怖、後悔、罪悪感などといった一次感情があるので、それをリフレーミングしながら伝えると良い。「旦那さんの体や今後について不安に思うとどうしても口調が強くなってしまいますよね。でもそれだけ心配しているんですよね。」のように。

 

 

Q)患者さんではなく家族にないかしらの精神病理があって、患者さん自身がうまくいかなくなる事例に関してはどのような距離感で家族に関わったら良いか。家族に何かしらの診断をつけて関わったほうが良いのか。

あくまで外来に本人の相談に来ている際には、家族は同じ支援者の立場で相談に乗るし、家族に診断をつけて関わることはお勧めできない。家族の情報も本人からだと部分的であるし、患者さんにコミュニケーションがうまくいかない口実にされ、医療者・患者vs家族の三角関係を生んでしまいがち。

外来ではあくまでは「そんな家族に患者さん本人はどう関わるか?」について扱い、家族ではなく、本人と家族の関係の問題について言い換えながら関わると良い。また、家族が診断が必要なほど深刻な際は別途受診を促すことも考慮する。

 

 

Q)多方向肩入れをする際に気をつけることは。

言葉にしなくても良いが、その場にいる人だけに肩入れをするのではなく、いない家族まで肩入れする気持ちを持っておく。また、「あなたはそう思うのですね」と相手を主語にしてサマライズや声かけをすることで、他の人は他の考えを持っている可能性があることを暗に伝える(共感)。

ただ、ラポールがまだ築けていない時や人との距離をとりがちな患者さんに対しては冷たい印象を与えることもあるので注意。その時はあえて「Iメッセージ」で同情的に伝えることもある。

 

 

Q)怒りをぶつけられた際に、陰性感情や無力感を感じるがどうしたら良いか。

まず、陰性感情や無力感は支援者に移りやすい(陰性転移)ので、自分の陰性感情や無力感は相手も感じている可能性もあることに気がつくことが大切。

その上で、こちらに非がある場合は謝罪することが大事だが、大抵の場合はそうでない怒りぶつけられることも多い。言われのない怒りをぶつけられた場合は先ほどの一次感情に考慮する必要がある。怒りの理由がどこにあるのか、何に怒っているのかを聴きながら、大変出会ったことに共感を示すことだけでも十分。

さらに一歩高度な技術として、共感のうち「反映」という「患者さんが気がついていない感情について言葉にする」とラポール形成も早くなるし、患者さん自身に内省を促すこともできるため、それ自体が治療でもある。

プライマリ・ケア連合学会夏期セミナーでワークショップ開催

プライマリ・ケア連合学会「学生・研修医のための家庭医療学夏期セミナー」にファミラボの皆さんとワークショップを行いました。
 
内容は「家族志向ケアに使う コミュニケーションスキルブートキャンプ」・・・!レクチャー後はひたすら小グループでコミュニケーションの筋トレを行います。
 
声かけが必要な場面(ex. 試合に負けて落ち込む同期)に何と声をかけますか?という風なお題にひたすら参加者に答えていただくのですが、そのやりとりの様子は早押しクイズのようで筋トレというよりは大喜利状態でした。笑
 
私はデモプレイで責められる夫役をしたのですが、妻役が迫真の演技すぎて肩身がせまい思いをしましたが、医師役の先生の優しい誘導に救われ、コミュニケーションの破壊力を身をもって実感しました。
 
参加者の皆様からは鋭い回答や実践的な質問が飛び交い、家族志向ケアやコミュニケーションはどの年代でも関心が高いことを感じました。
 
 今後も家族支援の楽しさや深みを若手の皆様にも伝えていけるように頑張りたいです。 

集団・社会を理解する上で陥りやすい罠

小さな黒板に書かれた事実バイアステキスト。 ストックフォト

昨今、結論がなかなか出せないような事が頻繁に起きています。

メディアやSNSの議論のプロセスを見ていると原因を単純化させたり、単一の個人・集団・社会を悪者にしたりと激化しているものもあるのを感じます。

その結論がどうかはわかりませんが、プロセス自体にそもそもの集団特有の力や論理が働き、加熱していることを思います。

集団や社会特有の心理を研究したものを「社会心理学」といいますが、今回はそこから個人が集団・社会を理解する上で陥りやすい偏り(バイアス)や推測(ヒューリスティック)をまとめてみました。

昨今の溢れる情報を少しでも冷静に捉えるきっかけになれれば嬉しいです。

 

陥りやすい偏り(バイアス)

バイアスとは先入観、偏向、偏りのことで、特に人が考える上で陥りやすい誤解や思い込みのことを「認知バイアス」といいます。

▶︎内集団バイアス
自分の所属団体に対して好意的な評価を形成しやすい。「内集団びいき」ともいう。
例)うちの県の人は他県の人より優れている。(実際はいろんな人がいる)

▶︎外集団同質バイアス
自分の所属する集団に比べ、他の集団の同質性は高い(メンバー皆似ている)と思いやすい。実際には様々な個性や特徴がある。
例)あの団体の人はみんな危ない。(実際はいろんな人がいる)

▶︎確証バイアス
自分の主張をしたい時に、自分の考えや仮説にあう都合のいい情報や自分の思い込みを正当化する情報を無意識に集める傾向にある。
例)議論になった時、自分の主張を正当化する情報ばかり集めてしまう。(実際は矛盾もあるが気づいていないこともある)

▶︎観察者バイアス
他人や物を評価する場合、自分が期待する行動ばかりに目が行き、それ以外の行動に注意が向かなくなる。
例)政治家のちょっとしたTV報道の噂で、良い功績まで見向きもされなくなる。(実際は良い部分も悪い部分もある)

▶︎対応バイアス
他者の行動は、他者の内的属性(性格や個性)のせいにされやすい。実際には状況や環境も強く影響している。
例)遅刻したのはだらしがないから。(実際は遅刻した事情がある)

 

陥りやすい推測(ヒューリスティック

ヒューリスティックとは、経験や先入観によって直感的に判断する思考のことです。結論を出すまでの時間は短いですが、必ずしも正しいとは限りません。

▶︎集団思考
集団の意思決定は極端な意見になりやすく、この短絡的な結論を集団思考という。危険な意見に偏ることをリスキー・シフト、安全な意見に偏ることをコーシャス・シフトという。
例)一つの発言だけを取り上げ、辞任すべきと判断する。

▶︎利用可能性ヒューリスティック
思い出しやすい情報をもとに判断しやすいこと。
例)飛行機事故のニュースを見て、事故は起こりやすいと判断する。

▶︎代表制ヒューリスティック
典型的なことは起こりやすいと判断すること。
例)外国人らしい人を見ると、英語を話すだろうと考える。

▶︎係留と調整ヒューリスティック
最初に手に入れた情報をもとに判断しやすい。
例)第一印象が悪い場合、その後どんな良いことがあっても悪く評価されやすい。

▶︎再認ヒューリスティック
見たことがあったり、すでに知っている情報を基に判断しやすい。
例)無名な人より、有名な人の意見の方が説得力があると事実に関わらず参考にする。

 

個人が集団・社会を理解する上で陥りやすいバイアス・ヒューリスティックについてまとめてみました。

集団・社会は個人とは異なります。それを前提に、少しでも情報を冷静に見つめられるきっかけになれれば嬉しいなと思います。

近隣の訪問看護ステーションと事例検討会開催

people seated on table in room

先日近隣の訪問看護ステーションと事例検討会を行いました。

 

事例は家族間葛藤が強いとある患者さん。医療者もその葛藤に巻き込まれ振り回されがちで、一方の家族から裏でお願い事をされたり、内緒でと言われながらあれこれ言われたりで関係者がしんどい思いをしていると伺い、事例検討会開催に至りました。

 

家族間葛藤は内容が身近だからこそ関わっている側もどちらかの肩を持ちたくなってしまうし、だからといって中立を意識しすぎてもぎこちなさが伝わってしまいます。

 

巻き込まれるのもしょうがないという前提のもと、なぜこの家族は家族内葛藤が強いのかを話し合うことで多様な視点から患者さんを考える時間でした。

 

また、葛藤回避しがちな家族にどう向き合ってもらうかについても話し合いましたが、多職種がそれぞれの専門的立場だけでなく、各々のライフステージや人生経験から知恵を振り絞う感じで非常に有意義な時間でした。

 

支援者一人で家族の中で中立性を保つことは難しくても、各々役割を決め、それぞれに肩入れすることでチーム全体で中立に保つことも一つ。今後もいろんな職種の方と対話を重ねていきたいです。