家庭医の学習帳

千葉県のクリニックで子どもからご高齢の方を日々診療。心療内科・家族支援にも力を入れています。日々考えたことや勉強したことを綴ります。

幸せな対人関係のための心理学 「交流分析」について

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はじめに 交流分析とは

日々の診療の相談で多いのは健康問題ですが、それに負けず劣らず人間関係の相談もとても多いです。親子関係、夫婦関係、学校との友達関係、職場の人間関係など、様々な人間関係の悩みがあると思います。

 

逆に、人と人との関わりが上手く行けば、悩みの大半は解決するのではないでしょうか。交流分析(Transactional Analysis: 以下TA)は人間関係の悩みの原因を分析し、解決していきます。

 

TAは、精神科医エリック・バーンによって提唱された心理療法で、簡潔にいうと「互いに反応しあっている人びとの間で行われる交流を分析すること」といえます。本投稿ではTAについて述べていきます。

 

TAは「4つの基本理論」「4つの分析」から成り立ちます。基本理論は人に自然に生じる欲求を示しています。

 

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 これらの欲求を認識した上で、TAは以下の4つの分析を行います。通常①→④の順序で行います。

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それぞれについて述べていきます。

 

 

基本理論① 自我状態

自我状態とは、ある瞬間の精神的、身体的体験の全体のことです。そして、私たちは出来事や相手によって自我状態を使い分けています。私たちは同じ出来事が起きても、人によって感じ方、考え方、どう行動するかは違ってきます。また、相手が違えば全く違う反応をします。

 

交流分析では、P(Parent)・A(Adult)・C(Child)という3つの自我状態があるとされます。

 

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交流分析では、相手に対して自分がどんな自我状態で関わりを持っているのかを分析していきます。特に、問題となる場面で、どの自我状態が働きやすいか理解を深めます。

 

 

基本理論② ストローク

最近の乳幼児精神医学の研究が示すように、人が成熟するためには、愛撫・接触・音などの刺激が不可欠です。TAではこれらを「ストローク」と呼びます。

 

ストロークは本来は、触るなどの身体的な愛撫行為を差しますが、TAでは、励ましや称賛、逆に罵倒や避難など他人の存在を認めるすべての行動が含まれています。

 

ストロークには、肯定的・否定的と条件付き・無条件などの種類があります。

 

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ストロークには2つの原則があります(ストロークの法則)。

 

まず、人は、もちろん否定的ストロークよりも、肯定的ストロークを欲しいと感じますが、ストロークを何も与えられない状態になると、否定的なストロークでも欲しくなります。

 

親の愛情に不足を感じている子どもは、叱られても良いから親がこっちを向いてくれることを願います。夫の愛情に飢えている妻が衝動買いをしたり、アルコール依存症になるのも、陰性のストロークを挑発しています。

 

また、条件付きのストロークですが、しつけや社会化に欠かせないですが、これだけを与えられ続けると、自尊心が育まれず、常に他人の価値観に左右され、しっかりとした自己を見つけられなくなります。

 

他にも、ストロークは与えた分だけ消費し、受けた分だけ貯蓄することができるという「ストローク経済の法則」や、個人が最も関心を持っているものや、一番認めてほしいと思っている点(育児ノイローゼに社会との交流・青年に信用・アルコール依存の妻に夫の愛情など)を「ターゲットストロークの法則」といいます。

 

 

基本理論③ 人生態度

TAは、精神分析の対象関係理論に倣い、人生早期に、幼児が親との関係でとる「立場」を重視し、これを基本的構えと呼びます。人生態度は、3-7歳くらいで出来上がると言われています。

 

人は、一度ある決まった立場をとると、それを強化することによって自己の世界を、予測可能な状態にしておこうとします。

 

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自分がどのスタンスを取りやすいかを理解していくことが重要です。

 

 

基本理論④ 基本理論時間の構造化

人は生活時間を構造化することで、心理的安定やストロークを得たいという欲求を持っています。人も動物も刺激への欲求が直接満たされないと、複雑に構造化した形の刺激を求めていく傾向があります。

 

もし人がストロークを得たいと望むなら、心の通う相手とともにいる(時間をともに過ごす)ことが必要です。しかし、そこで肯定的ストロークを得られないと、何らかの社会的状況をつくり、時間を構造化するようになります。

 

時間の構造化は、自分の時間の使い方を考えて、日々の生活行動の計画を立てていく方法です。人は交流において6つの時間の使い方をしているとされます。

 

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面接の中で利用するにはまず、クラエントが現在どのように時間を利用しているか円を書いてパーセンテージで表します。次に、時間の使い方を変えたい場合は、どのように変えたいかパーセンテージを書きます。最後に、具体的に増やしたい時間を増やすためにやることを3-5つ程度書き出します。

 

 

分析方法① 構造分析(エゴグラム)

人は個人個人に性格の傾向があります。構造分析(エゴグラム)は、それらを明確にし、あなたの考え、感情、行動の不調和について気づいていきます。P・A ・Cと3つの自我について先程述べましたが、P・Cはさらに各々2つの自我の側面があり、5つの自我に分かれます。

 

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実際にはエゴグラム・チェックリストによるテストを行い、5つの自我がどの程度現れているか「エゴグラムの形」を知ることができます。

 

エゴグラムの形は、描いた人の年齢、発達段階、生活状況によって異なってきます。また、多くのエゴグラムを観察すると、ある種の生き方をする人や、ある種の病気を病んでいる人などに、共通したエゴグラムが見られます。詳細はここでは述べません。

 

 

分析方法② 対話分析

 

P・A・Cは私たちだけでなく、相手の自我状態としても存在します。自分のP・A・Cのどの自我状態が相手のP・A・Cの自我状態に投げかけているかを分析し、問題を引き起こしているストロークを見つけ出し、改善を促すのが対話分析です。

 

ストロークの交換は大きく分けて、3つに分けられます。

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スムーズな会話をするためにも相補的交流を目指します。そのためには、どちらかが自我状態を相手に合わせる必要があります。対話分析では、相手からのストロークに対して、自分のどの自我状態を発信地にして、相手のどの自我状態に向けてストロークを投げるか検討します。

 

分析方法③ ゲーム分析

 時間の構造化で「ゲーム」とありましたが、これを分析するのが「ゲーム分析」で交流分析の中核をなします。対話分析の裏面的交流の中でも特に習慣化したケースを分析します。

 

ゲームとは「一定の周期性をもつ交流で、しばしば反復的であり、その奥に動機を秘めているもの」です。さして害のないものから、自己破壊に至るほどの複雑なタイプまで、いろんなレベルで演じられます。

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ゲームに伴う主な感情は、怒り・劣等感・増悪の念・抑うつ気分・恐怖・疑いです。人間関係で、これらの感情を反復的に体験する時は、結末に注意すべきです。 

 

ゲームに気づく最も有効な方法は、自分の感情に注目することです。ある人との人間関係で、繰り返し繰り返し不快な気分を味わう時は、ゲームを演じていると考えて良いでしょう。

 

例えば次の場合はゲームが演じられているかもしれません。

・毎朝、親が起こさないと起きれない子。

・授業中にいつも変な冗談を飛ばして注目を集める子。

・提案に対して、いつも反論する人。

・勤務態度不良、非常識な言動などの理由で、職場をなんども追われる人。

など。エリック・バーンはゲームの種類を以下のように分類しました。

 

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なぜ、人は、非建設的な結末を予想しながらも、あえてゲームを演じるのでしょうか。交流分析では、幼時から身についたある種の歪んだ感情の習慣(C)が、現在の理性の働き(A)を支配しているためである、と考えます。 

 

幼い子供にとって、親の愛は絶対に欠かせないものです。しかし、何らかの理由で親から温かいまともな愛情や注目をもらえないと感じると、次第にネガティブなストロークを求めます。例えば夜尿や怪我をして、尻を叩かれるなど。

 

幼い頃のストロークの求め方が、根深い習慣となり、ゲームのパターンの原型を作り上げます。

 

 

分析方法④ 脚本分析

人が強迫的(自分で止めようと思っても不可能なこと)に演出する人生のプログラム・無意識のうちに作り上げる人生計画を脚本といいます。脚本分析は、ある種の筋書き通りに生きる人びとが対象になります。

 

例えば、親子二代にわたる事故死、倒産、薬物依存、離婚などを繰り返す人など。脚本は、客観的にみると幼少期のトラウマなど、親を中心とする周囲の影響で生じ、その後の対人関係や他の人生体験によって強化されます。

 

脚本では、幼少期に親のCから子どものCへと、言語的または非言語的に伝えられた基礎メッセージを禁止令と呼びます。例えば、親から「お前さえいなければ」という言葉や虐待は、「生きてはいけない」という禁止令となります。それは「いつか死のう」という決意となり、無意識にも破滅的な人生を選択するきっかけとなります。

 

グールディング夫妻は、12の禁止令を挙げています。

 

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脚本から脱却するには「脚本チェックリスト」などに従って、自分の生育歴を系統的に調べ、親からの禁止令を「許可証に書き直す」方法や、親の禁止令に対して自分が幼時期に決断した状況を再現し、今より建設的な生き方を選択する「再決断療法」も行われます。

 

 

さいごに

人の自我から始まり、自我、ストローク、人生態度、時間の構造化といった四つの基本理論から、構造分析、交流パターン分析、ゲーム分析、脚本分析といった4つの分析について述べました。いかがだったでしょうか。

 

交流分析の方法は、心理療法として行われますが、精神疾患の方の治療に役立つのはもちろんですが、普通の、一般的な日常生活を送る人たちの心をより豊かにするのにも役立ちます。

 

一つ一つを自分自身をまず当てはめて考えてみると、きっと新しい自分に気がつくことができるのではないでしょうか。本ブログが読んでくださった皆様をより素敵な人生へと導きますように。

 

より詳しく勉強されたい方は参考文献をぜひご一読ください。

 

参考文献

杉田峰康. 交流分析のすすめ. 日本文化科学社. 1990年.

杉田峰康. 新しい交流分析の実際. 創元社. 2000年.