家庭医の学習帳

千葉県のクリニックで子どもからご高齢の方を日々診療。心療内科・家族支援にも力を入れています。日々考えたことや勉強したことを綴ります。

【資料】コーチングの基本 〜人を導く方程式〜

コーチングは、ビジネスをはじめ様々な業界で活用され、コーチングを利用することで仕事の目標を明確にし、効果的に達成することに注目が集まっています。近年では、医療分野でも活用されるようになっており、様々な研究がされています。

 

私も何度か研修を受け、そのエッセンスや考え方は患者さんへも適応的ますし、現場指導においては絶大な効果を誇ります。今回はコーチングについてまとめてみました。

 

コーチングとは

コーチングの起源は、1500年代に生まれたcoach「馬車」という単語に由来します。この言葉には、「馬車に乗った乗客を目的地まで送り届ける」という意味合いが含まれていました。

「目的の場所まで連れて行く」というコーチがビジネス分野に使われだしたのは、1950年代に入ってからです。ハーバード大学助教授のマイルズ・メイスが著書(「The Growth and Development of Executives」)で、「マネジメントにはコーチングが重要」と明記したことがきっかけとなりました。

日本では、コーチ・エィ(当時コーチ・トゥエンティワン) が、1997 年に国内初のコーチング学習プログラムの提供を開始しました。これをきっかけに、企業や教育などさまざまな分野でコーチングが活用されるようになりました。

コーチングの目指すものは2つあります。

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またコーチングの特徴として、3つあります。

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コーチングの構造

コーチは目標に向かってともに歩む存在で、コーチングの中でクライエントが目標と現状のギャップに気がつき、目標達成に必要な知識・技術・ツール・人脈がなんであるかを共に見出し、相手に備えさせます。このプロセスをコーチングカンバセーションと言います。

 

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このプロセスを踏むためにいくつかの構造がありますが、代表的なものとして「GROWモデル」があります。この順番でコーチングを進めていきます。

 

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また、より具体的なコーチングの流れとしてコーチングフローがあります。

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GROWモデルまたはコーチングフローを念頭にコーチングを進めていきます。

 

コーチングに必要なスキル

コーチングの目的や構造について見ていきましたが、具体的なスキルについて述べていきます。コーチングには具体的に9つのスキルが必要です。それぞれ見ていきます。

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①ゼロポジション

相手に最大の関心を持っているが、打球(相手の反応)に合わせて、前でも後ろでも、右でも左でも、素早く動ける構えです。ただゼロといっても単なる受け身ではないく、大切なことは2点あります。

  1. 相手への最大の関心を維持したポジション。
  2. コミュニケーションにおける反応はコーチが選ぶ。相手が受け取りやすく、会話が弾み、結果として相手の自発的な行動の促進につながる反応の選択が重要。

 

ラポール形成と傾聴

ラポール形成とは、相手と自分が心が通じ合って、互いに信頼している状態で、いきなりセッションを始めずに、世間話からお互いの関係を温めていくことが大事です。

 

傾聴とは、コーチング全時間の80%が聴くことに使われているといわれるほど大切なスキルです。共感を言語で示したり、沈黙や肯定的な非言語メッセージを大切にする聴き方を「傾聴」と呼びます。

 

傾聴をする上で大事な法則としてメラビアンの法則というのがあります。

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コミュニケーションにおいて重要なのは、視覚・聴覚といった「非言語メッセージ」が大半を占めていることがわかります。傾聴のスキルとして以下のものがあります。

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③承認する

コミュニケーションを促進するには、相手が自分に対して承認されたと思う必要です。承認するには、承認する事実を発見することが必要で、常に相手を注意深く観察していなければ効果的な承認をすることはできません。承認には4つのレベルがあります。

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また、承認の主語によって相手に伝える印象が変わりますので、使い分けていくことがとても重要です。

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④効果的な質問をする

質問力もコーチングにおいては重要なスキルで、様々な効果をもたらします。

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また、質問の種類として「オープン・クローズドクエスチョン」「未来・過去質問」「肯定・否定質問」が存在します。

 

オープンクエスチョン:5W1Hによる質問 具体化と抽象化の二つの目的がある。

「いつ」「誰が」「どこで」は、具体化され、相手の行動計画をより具体的にする質問。

「何を」「なぜ」「どのように」は、抽象化され、相手の考えや思いを引き出す質問。

 

クローズドクエスチョン:Yes Noで答えられる質問

会話の導入や、内容のチェックを目的とした時に使われる。しかし、得られる情報は少なく、質問によっては相手を誘導する可能性があるので注意。

 

過去質問・未来質問

 過去質問:過去に成功体験があった場合はコーチングで有効

 未来質問:未来に向かって何を考えるか。前向きに考えることができる。

 

肯定質問・否定質問

 肯定質問:意識が前を向き、モチベーションが高まる。

  例 そうしたらうまくいく? どうしたらいい?

 否定質問:極力使わない 窮屈な感じで、言い訳を考えたくなる。

  例 どうしてうまくいかないの?

 

以上を踏まえて、具体的な質問例を踏まえます。コーチングの初学者はこちらの具体例を見ながらコーチングをしていきます。

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⑤沈黙する

沈黙は、返す言葉に窮した結果として発生するだけでなく、相手との共感を深め、考えをまとめ、気持ちを整理し、新たな気づきを生む貴重な時間を作ります。

 

そのため、コーチはその有効性を理解し、積極的に使うことが必要である。温かく相手の答えを持つ態度は安心感を得ます。相手が押し黙ることで、こちらが不安になり、不安を解消するために沈黙を破ることは慎むべきです。

 

⑥接続詞を使う

接続詞を上手に使うと、会話はどんどん促進されます。「それで」「それから」「なるほど」「へー!」「もっと聞かせてよ」などの接続詞や接続的に言葉を挟むことにより、ペーシングの効果をさらに高めます。

 

⑦メタ・コミュニケーション

メタコミュニケーションとは、今のコミュニケーションをテーマに、コミュニケーションを交わすことで、コミュニケーションが機能しているかどうかを確認するために行うコミュニケーションです。

「ここまで話をしていて、どうですか?」とか「今話している話題について、どう思いますか?」などの質問から、メタコミュニケーションが始まります。

 

⑧提案する

コーチングは、相手が自ら考え、自ら気づくことを基本としているが、相手から答えが出てこない、答えを見出せないと感じられた時には、相手に新しい視点を提供する目的で、コーチから提案することがあります。

 

効果的な提案は、相手の検討の選択肢を広げる効果があります。提案の際は以下のポイントに気をつける必要があります。

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⑨タイプ分け

さまざまなタイプの患者、医療スタッフ、学生がいますが、そのなかでどうしても理由もなく単に「そりが合わない」という人がいます。しかし社会人である以上、どのようなタイプの人とも、良好で円滑なコミュニケーションをすることが求められます。

 

コーチングでは、相手とのコミュニケーションの可能性を広げる視点を得ることを目的に、コミュニケーション・スタイルによって相手を4つのタイプに分類します。

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留意点として、タイプに優劣はなく、どのタイプにも得意とする領域があり、不得意とする領域があります。また、タイプ分けは人格や人との関わり方を決定するものではないです。

 

あくまでコミュニケーションを円滑に進めるための視点を得るための一つのツールです。

 

今回は詳細は述べませんが、関心がある方はたくさんの書籍やインターネットがありますので、そちらを参考にしてください。

 

コーチングの留意点

コーチングの流れから具体的なスキルまで述べてきましたが、コーチングは実際やってみると、どうしてもうまくいかない例が存在します。以下の場合はうまくいかない言われ、適応を見極める必要があります。

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うまく機能しない場合は、コーチングではなく、「ティーチング」や「カウンセリング」が必要になります。それぞれの特徴を踏まえて、方法を切り替えたり、場合によっては適切な場所に紹介することが必要となります。

 

コーチング:双方向性のコミュニケーションで自ら気づきを促していく。

ティーチング:教えることで、知識や経験、体系化されたものを伝えること。

カウンセリング:精神・心理病理を扱い、心のネガティブな部分をゼロの状態に戻す。

 

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さいごに

日々医療現場で使ってみて感じるのは、患者さんに応用するのは難しく、現場指導の際に使えると感じています。

 

なんでかなと思った時に、コーチングが「自分が自発的に目標達成をしたい事」が前提であるので、「悩みの治療・癒し」が入り口の病院では難しいのかなと思いました。また医師患者関係は、どうしても「治療関係」になってしまうからだとも思いました。

とはいっても、そのエッセンスや考え方は患者さんへも適応的ますし、現場指導においては絶大な効果を誇ります。