家庭医の学習帳

千葉県のクリニックで子どもからご高齢の方を日々診療。心療内科・家族支援にも力を入れています。日々考えたことや勉強したことを綴ります。

メンタルヘルス領域における非専門医の役割について

画像17年間家庭医として地域のかかりつけ医の仕事をしてきました。しかし、色々と思うところや、出会いもあって、4月からはとある病院の診療内科にも勤務することになりました。
こちらの記事は別のサイトで4月の勤務直前にメンタルヘルス領域に対する考えをまとめておこうと思い書いたものです。メンタルヘルス領域において日本の家庭医(非専門医)ができること、求められること、どんなことを学んだら良いかをざっくりとまとめています。
 

地域の診療所だから相談に乗れる心の問題

とある男性がこのような理由で地域(家庭医)の診療所を受診されました。

「気持ちが最近ふさぎ込んでしまって仕事が手につかないんです。先生、私病気でしょうか。」

色々とお話を伺うと、どうにもうつ病が考えられました。他にも心療内科や精神科があるのに、なぜ当院に受診をしたのかと伺うと、その男性はこのように返事をされました。

心療内科や精神科に行くと、他の人の目が気になるんです。」と。

専門科の受診に対するスティグマ(偏見)はまだまだ根強く、それを避けるために地域の診療所に受診されました。このような方は時々いらっしゃいます。

他にも、専門科の予約がだいぶ先になってしまうという「アクセス上の理由」や、薬を飲みたくないといった「非薬物療法を希望する理由」で、まずは普通のクリニックに来る方もよくいらっしゃいます。

また、不眠・頭痛・腹痛の身体症状の背後にストレスが関わっていることも多いですし、さらには生活習慣病といった全く別の理由で通院されていても、よくよく話を伺うと抑うつ症状がある方などもいらっしゃいます。

このような方は、精神科や心療内科にはまず相談に行かないです。このような現状を考えると、地域(家庭医)の診療所だからこそ相談に乗ることができる心の問題があると考えられます。


日本の精神科医療の現状から非専門医の役割を考える

実際データで見ると日本の精神科医療の現状はどうなのでしょうか。

日本における精神疾患は、その有病率の多さから2011年には5大疾病(がん ・ 脳卒中 ・ 急性心筋梗塞 ・ 糖尿病・精神疾患)に数えられ、2017年には5大疾病のうち最も多い420万人にのぼります1)。

日本において、非専門医がどれくらいの精神疾患の患者さんを見ているのかは残念ながらデータが見つからなかったのですが、アメリカでは、家庭医を受診患者のうち25%が精神疾患を有しており、うつ病患者の3分の2は、プライマリ・ケアの現場でうつ病の治療を受けているとされます2)。

ただ、日本特有の「入院医療中心から地域生活中心へ」の精神科医療の現状から、非専門医の受診のニーズは増えると考えられます。日本の精神科医療の特徴として、精神疾患の方は入院させることで、地域から隔離してきた歴史がありました。

近年ではこれが見直され「入院医療中心から地域生活中心へ」という理念の下、様々な施策が行われています。そのため、精神病床の入院患者数は徐々に減少傾向(1999年 約32.9万人→2014年 28.9万人)となりました。一方、外来患者数は2倍以上に増加(特に認知症うつ病などの気分障害)しました。

2017年の「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」報告書では、精神障がい者が地域の一員として、安心して自分らしい暮らしができるよう、医療・障害福祉・介護・社会参加・住まい・地域の助け合い・教育が包括的に確保された「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築を目指すことを新たな理念として明確にされました3)。

地域の精神科・心療内科の専門家の数が限られているため、地域の非専門医が精神科医療を担う役割は徐々に大きくなってくると考えられます。

 

非専門医がメンタルヘルス領域で身につけておきたいこと

米国家庭医療学会では、家庭医がメンタルヘルス領域で身につけておきたい内容のカリキュラム・ガイドラインを作成しております4)。ざっくりとまとめると以下のような内容になります。

・医師-患者関係の特徴を認識し、最適化する面接技法
・正常な心理社会的な成長・発達の理解
・病気が患者・家族に起こす心理的影響の理解
・ストレスとその対処法(呼吸法・筋弛緩法・イメージトレーニング)の指導
メンタルヘルス疾患・精神障害のスクリーニングと緊急事態の把握
メンタルヘルス疾患・精神障害心理検査と診断
・動機付け面接・認知行動療法の実施
精神薬理学的製剤の適切使用
・家族・コミュニティリソース・他のメンタルヘルス専門家などの地域のリソースの活用

個人的には心理療法については他にも色々と知っておくと家庭医外来では役立つと思ってい流ので、交流分析・家族療法・ブリーフセラピーはじめ色々と学んでみたいと思っています。

家族医は、健康・病気と心と家族・社会の生物学的、心理学的、社会的要因の相互関係のシステム・アプローチをとても大切にしています。しかし、3つのアプローチのうち心理学的要因を扱うには、まだまだ自信がないというプライマリ・ケアの現場の先生は少なからずいらっしゃるのではないかと思います。

私もプライマリケア現場でできるメンタルヘルスについてもっと学んでいきたいし、学んだことを少しずつまとめていけたらと思います。明日からの心療内科での勤務が楽しみです。最後まで読んでくださりありがとうございました!
 

参考文献

1)厚生労働省. 精神疾患のデータ. 東京:厚生労働省.[not revised;cited 11 Apl 2021].Availablefrom:https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/data.html
2)Cunningham PJ. Beyond Parity: Primary Care Physicians’ Perspectives On Access To Mental Health Care. Health Aff. 2009;28(3):w490-w501.
3)精神保健福祉士の養成の在り方等に関する検討会. 最近の精神保健医療福祉施策の動向について. 東京:厚生労働省. [not revised;cited 11 Apl 2021].Availablefrom:https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/000462293.pdf
4)AAFP. Recommended Curriculum Guidelines for Family Medicine Residents
Human Behavior and Mental Health. AAFP. [not revised;cited 11 Apl 2021].Availablefrom:https://www.aafp.org/dam/AAFP/documents/medical_education_residency/program_directors/Reprint270_Mental.pdf