家庭医の学習帳

千葉県のクリニックで子どもからご高齢の方を日々診療。心療内科・家族支援にも力を入れています。日々考えたことや勉強したことを綴ります。

「変化させること」ではなく「変化するための物語を見つけること」の重要性

同じ出来事でも人によって物語(見方)が異なれば、事実も変わります。支援では一方の話を聞きながらも、別の家族・関係者は異なる見方を持っている可能性を常に考えながら関わることが大切です。
 
例えば、夫が子育てに全く関わらないと奥さんが嘆く場合に、旦那さんダメですねと共感するだけでは不十分で、旦那さんには別の事情がある可能性も常に考える必要があります。例えば、夫は何かを伝えようとすると妻にいつも言い負かされるため何も言えずにいる、など。
 
そんなこと家族ならしっかり話し合えばいいじゃないかと思うかもしれませんが、家族だからこそ感情的にもなるし、利害関係がありすぎて語れないことや共有しづらいこともたくさんあります。
 
そこで支援者のような第三者がそれぞれが語り合う場を、それも安全に提供することで、その語りのプロセス自体が本人や家族に新たな筋立てや意味づけをもたらし、それだけで治療的に働くことも多いです。
 
先ほどの例だと、両親がすれ違っているだけではなく、両親とも本当は一緒に協力しながら子育てしたいけれど、子育てもはじめてだし、親になることもはじめてなのでお互い距離感を掴みかねている、といった新しい筋道など。
 
そう思うと、支援者としては「変化させること」は難しくても「変化するための物語を見つけること」をまず行うことだけでも違うのでしょう。ただ、語りの場を安全に提供することこそ難しいことがあり、腕の見せ所でもあります。
 
家族メンバー一人一人への共感的な対応、関わり、時には通訳によって、それぞれのメンバーの立場や事情、想いが少しずつ表現されていくプロセスを、ある程度公平に全員との間で持つことが大事です。また、ある一人への共感、尊重、配慮のあるやり取りに努めながら、それを聞いている家族にどんな影響があるかを絶えず意識することも重要です。
 
日々精進が必要です。