家庭医の学習帳

千葉県のクリニックで子どもからご高齢の方を日々診療。心療内科・家族支援にも力を入れています。日々考えたことや勉強したことを綴ります。

集団・社会を理解する上で陥りやすい罠

小さな黒板に書かれた事実バイアステキスト。 ストックフォト

昨今、結論がなかなか出せないような事が頻繁に起きています。

メディアやSNSの議論のプロセスを見ていると原因を単純化させたり、単一の個人・集団・社会を悪者にしたりと激化しているものもあるのを感じます。

その結論がどうかはわかりませんが、プロセス自体にそもそもの集団特有の力や論理が働き、加熱していることを思います。

集団や社会特有の心理を研究したものを「社会心理学」といいますが、今回はそこから個人が集団・社会を理解する上で陥りやすい偏り(バイアス)や推測(ヒューリスティック)をまとめてみました。

昨今の溢れる情報を少しでも冷静に捉えるきっかけになれれば嬉しいです。

 

陥りやすい偏り(バイアス)

バイアスとは先入観、偏向、偏りのことで、特に人が考える上で陥りやすい誤解や思い込みのことを「認知バイアス」といいます。

▶︎内集団バイアス
自分の所属団体に対して好意的な評価を形成しやすい。「内集団びいき」ともいう。
例)うちの県の人は他県の人より優れている。(実際はいろんな人がいる)

▶︎外集団同質バイアス
自分の所属する集団に比べ、他の集団の同質性は高い(メンバー皆似ている)と思いやすい。実際には様々な個性や特徴がある。
例)あの団体の人はみんな危ない。(実際はいろんな人がいる)

▶︎確証バイアス
自分の主張をしたい時に、自分の考えや仮説にあう都合のいい情報や自分の思い込みを正当化する情報を無意識に集める傾向にある。
例)議論になった時、自分の主張を正当化する情報ばかり集めてしまう。(実際は矛盾もあるが気づいていないこともある)

▶︎観察者バイアス
他人や物を評価する場合、自分が期待する行動ばかりに目が行き、それ以外の行動に注意が向かなくなる。
例)政治家のちょっとしたTV報道の噂で、良い功績まで見向きもされなくなる。(実際は良い部分も悪い部分もある)

▶︎対応バイアス
他者の行動は、他者の内的属性(性格や個性)のせいにされやすい。実際には状況や環境も強く影響している。
例)遅刻したのはだらしがないから。(実際は遅刻した事情がある)

 

陥りやすい推測(ヒューリスティック

ヒューリスティックとは、経験や先入観によって直感的に判断する思考のことです。結論を出すまでの時間は短いですが、必ずしも正しいとは限りません。

▶︎集団思考
集団の意思決定は極端な意見になりやすく、この短絡的な結論を集団思考という。危険な意見に偏ることをリスキー・シフト、安全な意見に偏ることをコーシャス・シフトという。
例)一つの発言だけを取り上げ、辞任すべきと判断する。

▶︎利用可能性ヒューリスティック
思い出しやすい情報をもとに判断しやすいこと。
例)飛行機事故のニュースを見て、事故は起こりやすいと判断する。

▶︎代表制ヒューリスティック
典型的なことは起こりやすいと判断すること。
例)外国人らしい人を見ると、英語を話すだろうと考える。

▶︎係留と調整ヒューリスティック
最初に手に入れた情報をもとに判断しやすい。
例)第一印象が悪い場合、その後どんな良いことがあっても悪く評価されやすい。

▶︎再認ヒューリスティック
見たことがあったり、すでに知っている情報を基に判断しやすい。
例)無名な人より、有名な人の意見の方が説得力があると事実に関わらず参考にする。

 

個人が集団・社会を理解する上で陥りやすいバイアス・ヒューリスティックについてまとめてみました。

集団・社会は個人とは異なります。それを前提に、少しでも情報を冷静に見つめられるきっかけになれれば嬉しいなと思います。