2021年4月より心療内科での診察に週2-3日携わるようになり、1年が経ちました。心療内科で1年間どっぷりと診療をし、心療内科や心理療法の奥深さに触れられ日々大変学びも多く、家庭医でなければ心療内科になることを選んでいたかもしれないと思うほど面白かったです。
以前の学びは別の記事でまとめております。
ここ3ヶ月はほぼ独立した状態で他科の紹介をいただきながら対応し、外来患者さんも増えてきたので、時間と勝負をしながらもいかに質の高い精神医療を提供できるかの戦いでした。実際にはかなり難しかったですが・・・。
この3ヶ月の学びを振り返ります。
精神疾患の治療を終診するにあたり大事なこと
1年間診療をしていると、精神疾患のように数ヶ月単位での関わりを要する患者さんも病状が落ち着き、終診となる患者さんもおります。医者と患者さんの関係性が治療を進める上で大事な精神疾患においては、診療の終わらせ方もとても大事になります。
終診時に最も大事にしている事は「振り返り」です。治療が進む中で患者さんも落ち着きを少しずつ取り戻し、いろいろな話題から内省につながりますが、こちらから心理教育を行うこともあれば、振り返ることで患者さん自らで気がつかれることも多いです。
振り返る上で大事なのは、①なぜ起こったのか、②今回の経験から得たものは何か、③次に同じことが起こった時どうするか、です。振り返る際、精神疾患を患ったことに罪悪感を覚える患者さんもいらっしゃるので「心を病むことは頑張っている証拠」「病気は人生や生活の再調整の一つの機会」「今後何かしらの面で体調を崩した時にもその経験は絶対に無駄にはならないこと」などをお伝えするようにしています。
終診時にもう一つ大事な事は「再発時の枠組み」です。どんな時に注意が必要で、どんな対処をして、どうなったら再度受診をするかについて事前にお話をします。振り返り自体が再発予防にはなりますが、それでもやっぱり辛くなることはあります。
どんな時に来るように伝えるかは、悪化する前の早期発見につながります。また、辛くなった時の対処法や相談できる場所があるということは、患者さんにとってはコントロール感や安心にもつながり、逆説的に再発の予防にもつながることも少なくないです。
治療者が自己を高めることの重要性
精神疾患での治療は「この医療者が言うのだったら少しやってみようかな」と思えるような治療関係がうまく結べるかが大事となりますし、外来の中で患者さんに様々な気づきを得ていただくためには、治療者の認知や感情の偏りがないかが試されます。
以前も振り返りで何度か書きましたが、いろんな患者さんと話をしながら、自分自身の性格やコミュニケーションについて色々と考えさせられました。心理療法でも治療者自身の自己の重要性について重要視している概念がいくつかあるのでまとめてみました。
①治療的自己
ワトキンスが研究によって導き出した概念で、患者の治療経過に影響を及ぼす知識・経験・技法などを超えた患者の行動や回復に影響を及ぼす治療者の個人的な資質のことを指します。大事な要素として「共鳴」と「客観的知覚」が挙げられます。
共鳴とは一時的に患者さんに同一化できる能力であり、患者とともに感じ、ともに理解する治療者の内的体験を指します。一方で「二人の精神病」にならないためにも客観的に理解できる能力も必要で、両者のバランスを保つことが治療者に必要とされます。
②自己一致
ロジャーズが提唱した来談者中心療法において支援者に求められる3つの態度のうちの一つです。自己一致とは、治療者が治療の中における自身の体験(感情や認知)にしっかりと気がつき、その体験を患者さんを尊重しながら必要に応じて自己開示する事です。
治療の中では、治療者が患者さんに対して透明かつ他者を尊重する態度をみる事で、患者さん自身も開放的でいられやすくなり、自分自身を受け入れ、治療者にもさまざまな話をしやすくなるとされます。
③自己分化
家族療法家のうち多世代派のボーエンによって提唱された概念で、感情と知性の調和を保つ能力を指します。分化度が低い場合、過度に感情的または知性的になり、感情的に巻き込まれたり、知性的となり対人関係の距離が縮まりにくくなります。自己分化は、関係性の中で個を維持し良好な対人関係を結ぶために重要な能力とされます。
治療の中では、治療者が患者さんやそのご家族に対して感情と知性のバランスが取れた状態で関わることで、自己分化が高い状態を知ることができ、冷静に問題に方法を考え対処することを学ぶことができるとされます。
④安全基地
愛着理論のうちエインスワースによって提唱された概念で、人間の愛着形成の基本をなす概念です。自身が愛着対象に物理的にも心理的にも保護され、安心できると思える状態(認知)にあることです。安全基地を持つことにより、様々なことに挑戦したり、辛い境遇や危険もを乗りこえていくことが出来るようになります。
治療の中で、治療者が患者さんの安全基地となることにより、過去の辛い体験や苦痛に向き合い、それが現在にのような影響を与えているか振り返り、これまでコントロールできなかった感情や行動を変える活力になるとされます。
家庭医・総合診療医と心療内科の類似点と相違点
家庭医として研修を積んだ後、心療内科として診療も行うことで両者に様々な類似点があると思いました。同時に、それぞれ関わる領域や視点は非常に類似していますが、アプローチやスタンスが違うことも感じました。あくまで個人的な意見をまとめてみました。
①類似点
一番の共通は、症状や病気の要因を身体的側面だけに求めず、心理社会的要因もしっかりと考え、アプローチをすることだと思います。
家庭医が獲得すべき能力・資質のうち「患者中心の医療・ケア」では「地域住民が抱える健康問題には単に生物医学的問 題のみではなく、患者自身の健康観や病いの経 験が絡み合い、患者を取り巻く家族、地域社会、 文化などの環境(コンテクスト)が関与してい ることを全人的に理解し、患者、家族が豊かな 人生を送れるように、コミュニケーションを重 視した診療・ケアを提供すること」としています。
心療内科では、その基本的な考えに「心身相関」があり「人を身体面だけでなく、心理面や社会面などを含めて、全人的に治療すること」を基本のコンセプトとしています。特に心療内科では「心身症」といって「心理社会的ストレスの影響を強く受ける疾患(胃潰瘍、喘息、過敏性腸症候群など)や症状(頭痛、めまい、しびれなど)」を重視します。
また「機能性疾患」を両科とも扱うのも特徴です。機能性疾患とは、臓器には異常は認めないにもかかわらず自覚症状だけがある病態をいいます。症状を認めるのに検査で異常を示されず、病名がつかないまま症状が遷延し、場合よっては多くの医療機関を受診しても何も診断がつかずに困まり、家庭医・総合医や心療内科に受診・紹介されることが多いです。「機能性疾患」は日常の生活環境が多分に影響しており、症状の改善には、臓器だけに焦点を当てるのではなく、生活習慣やストレスにも目を向ける必要があります。
さらに、それぞれ「コミュニケーション」を診療・治療に活かします。家庭医では「患者中心の医療」「家族志向のケア」「行動変容」などでといったアプローチで患者さん・家族に有効な関わりをするかを大事にします。心療内科では、様々な心理療法のアプローチを活かしながら治療的関わりを大事にします。
②相違点
家庭医と心療内科はそれぞれが関わる疾患領域は類似しますが、家庭医の方が身体疾患をより幅広く、治療も継続的に関わります。一方、心療内科で精神疾患との境界の患者さんや複雑な心理社会的問題を抱えた患者さんに対してより専門的に関わる印象があります。
また、先ほど心理社会的アプローチも重視するとしましたが、双方ともに心理面・社会面にもアプローチはしますが、多少の違いがあると思います。家庭医はより地域にある社会資源を活用したり、福祉・教育機関や行政との連携といったより社会的アプローチを意識しながら関わりますが、心療内科は心理療法や心理職との協働といったより心理的アプローチをより体系的・専門的に関わります。
さらに、求められる役割の違いがあります。家庭医はよりプライマリ・ケアとして医療の入り口として心の問題に対する課題意識がまだ乏しい問題が未分化の状態で来られ、より無関心の方へのアプローチも求められます。また、かかりつけ医としての役割も求められ、患者さんへのアクセスの良さや継続性が担保されるために長期的に関わりやすい一方、だからこそ距離感が難しくもなりやすいです。
心療内科は患者さん自らであれ紹介であれ、心の問題に対して多少なりとも課題意識があって受診されているため、その関心をどのように汲み取るかのアプローチが求められます。また、専門家としての役割を求められるため、扱う問題が終了すれば一旦関係は終了となりますし、より診療面接の効果を上げるために、紹介までの経緯や臨時の相談までの診療の構造も意識して関わります。
さいごに
2022年4月からは本来の地域の家庭医の仕事に戻ります。1年間心療内科でどっぷりと診療をして、心療内科や心理療法の奥深さに触れられたのは大変貴重な機会でした。家庭医外来や訪問診療も細々と続けていたのですが、心療内科で学んだ知識・技術は非常に役立つことも多かったです。
もともと心理・精神領域にも関心はあったので家庭医でなければ心療内科になることを選んでいたかもしれません。ただ、より専門的な内容を地域現場に落とし込むことに個人的には興味があり、地域の家庭医としてこれからも頑張っていこうと思います。
引き続き心療内科の診療は月2回のみ続けていきますし、家庭医・総合診療医と心療内科・心理療法から生み出されるシナジーを今後も突き詰めていきたいです。
最後まで読んでくださりありがとうございました!