家庭医の学習帳

千葉県のクリニックで子どもからご高齢の方を日々診療。心療内科・家族支援にも力を入れています。日々考えたことや勉強したことを綴ります。

支援者向けの親子講座(思春期の子どもがいる家族編)開催

4月13日に支援者に向けて親子講座を開催しました。実際に長年家族支援をされているベテランの方もいらっしゃると伺い、講座開始前にとても緊張しました・・・。

今回は「思春期の子どものいる家族の変化と課題」を主にお話ししました。

内容

家族をどのように捉えるか様々な理論がありますが、今回は「家族ライフサイクル」をテーマにお話ししました。

家族ライフサイクルとは家族にはある程度共通した変化です。7つの段階に分けられ「成人形成期」「カップル形成期」「小さい子どものいる家族」「思春期の子どものいる家族」「巣立ち時期」「中年後期」「終末期」があります。

各段階に課題があり、それを乗り越えることで家族は成長でき、逆にうまく乗り越えられないと危機に陥ります。どのようにして家族ライフサイクルごとの課題を調整していくかが重要とされます。

「思春期の子どものいる家族」の課題として2つが挙げられています。

・思春期の子供がシステムから出たり入ったりするのを許すために親子関係を切り替える。
・中年期の夫婦や仕事に再び焦点を当てる。

Monica McGoldrick. The Expandind Family Life cycle 5th ed. Person. 2016より

講座ではこれらを経験や文献をもとに一つ一つ細かくお話ししました。こちらの記事にも思春期のライフサイクルの特徴をまとめておりますので、関心ありましたら是非覗いて見てください!

 

kamenokodr.hatenablog.com

質問

講座中には様々な質問が寄せられました。回答も含めて紹介します。

 

Q)思春期の多感な時期の子供達と接する時、心に留めておく態度や心構えなどはありますか?

親としては、思春期の時期の心の動きを知ると同時に、中年期の親自身が子どものこと以外にもストレスも抱えやすい時期であることをまずは知っておくと良いと思います。中年期は自身の健康、夫婦や他の家族との関係、職場においても役割が変化しやすいです。子どもに辛く当たってしまいたくなる時、これらの原因がないか振り返ると良いでしょう。

また、思春期は自身の感情や思考を言葉にする力も発達途中です。自身の思いがうまく表現できず、時には親に対し攻撃的な言葉や行動を起こすことがあるかもしれません。表面の言葉に囚われすぎず、本当は何を伝えたいのか考えてみると良いでしょう。

支援者としては、子どもとの距離感を重視すると良いでしょう。相手が話をしたくないときは無理に距離を詰めず、心地よいと感じる距離感で見守ることが重要です。相手の興味あることに支援者も興味を向け、話題にすると話のきっかけになることが多いです。相手が話をし始めた時にはその言語化の未熟さを受け入れ、一緒にその考えや感情を見つけていくようコミュニケーションすると良いでしょう。

 

Q)診察で思春期の子どもと関わる時、具体的にどのようなことに気をつけたり、工夫をしていますか。

まずは相談しに来たこと自体とても勇気がいることですので、来院されたことを労うようにしています。人に助けを求められたり、行動を起こせること自体が強みです。

次に、思春期の時期に本当に困っているのは本人より親であることも多く、来院までの経緯を細かく聞いていきます。それによって、普段の家族の関係性が見えてきます。家族には、誰か一人だけでも変化すると家族全体が変化するという考え方(さざなみ効果)があり、困っている家族が家族の変化のタネとなることも多いです。

コミュニケーションの取り方では、思春期の子どもと信頼関係を築くことにつきます。特に「この人ならわかってくれる」と思われることが重要で、そのため少しでも多くの「ラポールマーカー」を引き出すことを心がけています。

ラポールマーカーとは、相手が支持されたと感じているサインで、うなずきや「そうです」「うん」といった反応をさします。相手のこの反応が多ければ多いほど、理解されたという実感を得ているといえ、信頼関係を築きやすくなります。

 

Q)中年期の親も辛いという話がありましたが、それを抱えながら子どもと向き合うためのコツはあるでしょうか。

親自身が辛い場合、親自身のサポートが必要です。他に色々と相談できる関係を築くことが大事ですし、パートナーや他の親しい第三者でも相談できる方に悩みを打ち明けることが良いでしょう。

また、子どもにその悩みを無理に隠さなくても良いのかもしれません。もちろんどこまでを話すかは、悩みの内容や子どもの状況によると思いますが、親自身がその不安や葛藤に向き合う姿勢から子どももたくさんのことを学ぶでしょう。

 

Q)どのように性について説明し、大切さを教えたらいいでしょうか。

性のことに限らず、大切なことを伝えるときは「何を言うか」以上に「誰が」「どのように」言うかの方が大切です。

大切なことをしっかりと伝えられるようにするためにも、普段から対話ができるような関係であることが大切です。また、どんな内容でも落ち着いて話すことが重要です。コミュニケーションでは言語的メッセージより、非言語メッセージの方が多くの情報を与えます。感情的や投げやりに話すとどんな内容でもうまく伝わりません。大切なことを話す際は、親が時間や心の余裕を持って話すことを心がけると良いでしょう。余裕を持って伝えられない場合は「また後でね」と仕切り直して伝える事がオススメです。

また、何かを伝える際は「Iメッセージ(私はこう思う)」を使うことで、相手と自分に程よい距離感を与え対話になりやすくします。そして、どんなに小さな子どもでも意見を持っている可能性を考え、その意見が例え親と異なっていても否定せず、まず尊重していくことが重要です。気になるならば、そう考えた理由を聞くと本人の理解につながるでしょう。

感想

講座後には様々な感想をいただきましたので、いくつか紹介いたします。

アイデンティティと形成にあたり「危機」「傾倒」と二つの軸があり、このように体系化できるんだなと印象的でした。

・“モラトリアム期”は何もしていないだけのように見えて、自分の進む方向性を見定めるための大切な時期で自己効力や自己肯定に影響するということがわかり、自身が子どもに接する時の参考にもなったし、これを親に伝えたいと思いました。

・思春期になると選択の自由性の幅が大きくなるという点です。子供が成長し思春期に入り選択の自由性を求めているのに親が今まで通り接していたら、子供が窮屈に感じたり圧迫感や強制力を感じたりして反発されて上手くいかないケースとなってしまう様に思いました。

・子供が思春期に入る時、親も思秋期に入るので関係性の変化にどう対応していくかが重要だという事。

・思春期の子女たちはすごく悩む時期だとは思っていましたが、親も余裕がなくなっている時期だということに気付かされました。支援者として、子ども側に立ちやすいので、第三者としてはいつも中立で客観的に見つめられるようにしたいです。

・子供の視点から親を理解する内容もあり、親も完璧とは行かないけどそれを親も子供も理解することも円満な親子関係を築く要素だと思いました。

・家族の円環モデルの話が興味深く、家族の関係やルールは適度な柔軟性が必要なのだというのがなるほどと思いました。

・グループディスカッションで他の方が「親の意見でなく、ただ、親が自分が答えを出すまで待ってほしかった」という話だったり「自分が思春期での悩みを親にぶつけたとき親も全力の愛をぶつけてくれた(でも、自分を受け止めてくれた)」と言う話を聞き、思春期においては不安定な自分をも全て受け入れてくれる場所は親であって欲しいと子供は願っているのだなと思いました。

 

私も参加者の皆様の意見を伺い、とても充実した時間した時間でした。一つでも参加者の皆様の心に残ったものがあれば嬉しいなと思います。