家庭医の学習帳

千葉県のクリニックで子どもからご高齢の方を日々診療。心療内科・家族支援にも力を入れています。日々考えたことや勉強したことを綴ります。

思春期のライフサイクルの特徴 〜子どもも揺らぐが親も揺らぐ〜(2023.4.13更新)

思春期は10−24歳がおおよそ相当し、子どもから大人へ肉体的にも精神的にも成長し、学校中心だった社会から社会的な役割も変化する重要な時期である。

思春期は大事な時期である一方、「難しい年頃」と言わる時期でもある。この時期は、感情や考えを言語化する能力も発達途上な一方、本人は周囲の大人から距離を置くためコミュニケーションが難しい。

そのため、思春期の子どもと関わる上で、思春期特有の心身の発達、周囲との関係性の変化、コミュニケーションの特徴を踏まえて関わることが重要となる。本記事では、思春期の特徴を「個人心理」と「家族心理」に分けてまとめた。

思春期の心身の発達

a.「自我」の発達 アイデンティティの確立の時期

思春期には、自分らしさとは何かを探求するようになる。自分はどんな個性・能力・技術を持った人間だろうか、どんな弱点や欠点を持っているだろうか、どんな社会的役割を担うことができるだろうかと他者との違いを知ることが重要となる。

自分らしさを見つけることを発達心理学者として有名なエリクソンアイデンティティ(自己同一性)の確立」といった。アイデンティティには以下の4つの要素がある。

アイデンティティ確立の過程には大きな負荷がかかり、混乱が大きいと生きる意味を喪失する。この状態をエリクソンは「アイデンティティの拡散」といった。しかし、生きる意味を失うまでいかずとも、すべての人は多かれ少なかれ葛藤や緊張状態に陥り、これはアイデンティティ確立の上で必要な過程である。

発達心理学者のマーシャは、アイデンティティが確立しているか否かの二分法で捉えることは、単純化しすぎて青年の実像に合わないと考え、アイデンティティの状態を4つに分類した。これをアイデンティティ・ステータス(自己同一性の状態)」という。

アイデンティティ・ステータスは、①危機(この価値観で良いのか、自分は何者であるのか、自分を見つめ選択・決定すること)②傾倒(自分の信念に基づいて行動している程度)の2つの基準によって4つに分けられる。

b.「性」の発達 二次性徴がもたらす変化

思春期には二次性徴が起き、男女ともに様々な身体変化が発現する。二次性徴は身体面だけでなく、心理面でも大きな影響を及ぼす。その前に性の成長について触れたい。

私たちは2,3歳頃に自分の性別を正確に理解(中核的性同一性)し、不変であること(性の恒常性)を理解する。その後、親、仲間、メディアなど社会的要因による性別に基づいた期待や働きかけや、また園や学校の文化の中で性役割を学習していく。その中で、子どもは同性と遊ぶことをより好むようになり、児童期には性別によって分離された仲間関係(同性仲間集団)を形成するようになる。

その後思春期になると二次性徴を迎え、主に二つの変化が生じる。一つは生殖行動への衝動が動き始めること、もう一つは他者との愛に心が開かれ始めるという変化である。

c.人間関係の発達 ギャングエイジからチャムシップへの移行

小学生になると、席が近い、たまたま帰る方向が一緒、親同士が知り合いなどがきっかけとなって友達づくりが進展し、小学校3・4年になると仲間意識や友人関係を楽しむようになる。

集団の規則を理解して、集団活動に主体的に関与したり、遊びなどでは自分たちで決まりを作り、ルールを守るようになる一方で、閉鎖的で仲間の言動に同調しやすくもあり、その仲間関係をギャングエイジと称する。

ギャングエイジには路が同じ、学校で席が隣同士など相手が物理的に近いことが条件となっていることが多い。しかし、思春期になると物理的な近さだけで仲間関係を作るのは物足りなる。

思春期に入ると物の見方、考え方、指向性を同じくする少数名とより深まった友人関係を築くようになる。このような少人数の友情関係を精神医学者のサリヴァンはチャムシップ(親友関係)と呼んだ。

思春期の時期にとって、自分と同質の仲間と狭く深く付き合っていくことにより、自分についてより知ることができる。他人は自分の鏡なのである。そのため、子どもはますます多くの時間を家族以外の人間関係の中で過ごすようになる。

②周囲と関係の変化

a.家族関係の変化 親子の心理的距離の増大と力関係の逆転

子どもは自分を律しつつも完全には独立できない半独立状態となり、親の統制下から離れたがる。家族関係以上に友達関係を優先するようになる。家族メンバーの心理的距離は年齢と共に増大し、反対に親子間の力の差は小さくなる。

この変化を受け入れた場合、家族関係は維持されやすい。そのためには、家族には子どもがいなくてもまとまりを維持する凝集性と、戻ってきた時は子どもを受け入れてまとまり直すことができる柔軟性が求められる。

特に重要なのは家族内ルールの変更である。思春期以前のルールは自由度の低いものだったとしても、思春期ではより自由度の高い柔軟なルールへの変更が求められる。

例えば、以前は「門限は6時まで」という家族のルールであったとしても、それが思春期の子どもには窮屈に感じる。そのため「夕食を食べない時は事前に知らせる」といったより自由度の高いルールへ変更することが求められる。

家族関係やルールが固すぎる場合は以下の3つのことが起こりうる。

①親子の「内部抗争」が生じ、感情的争いまで発展すると親子共に様々な症状が出現

②子どもの自律性が制限され外の世界へ出ていけなくなる

③極端に異質な文化に入り込み、トラブルに巻き込まれる

b.家族の変化 中年期危機における親たちの揺らぎ

親たちの年齢は個人差は大きいが、40,  50代の中年世代と考えられる。この時期は「中年期危機(ミッドライフクライシス)」と呼ばれ、自身の身体的衰え、職場の役割変更、配偶者や子ども関係の再構築、老いた両親の健康問題などの様々な負荷が生じる。

これらの負荷は身体面だけでなく心理面の健康問題として現れる。女性は子供が巣立つことでうつや無気力に陥る「空の巣症候群」になったり、不定愁訴が多くなるとされる。また、40-50代の自殺率は全世代の中で最も多い。

これらの変化は喪失ともいえ、健康・人間関係・社会的役割などさまざまな喪失経験を親はする。その中でより納得のいく生き方を探していく必要性が生じる。それは青年がアイデンティティを模索する様相と類似しているため、思春期と対峙される形で心理学では「思秋期」ともいう。中年期にはアイデンティティの再構築が必要となる。

子どもも揺れる時期だが、親も揺らぎを経験する。そのため、思春期の時期は家族機能不全にさらされる危険な時期ともいえ、各々の家族によってさまざまなことが起こる。

子どもの心の揺れが親の不安を喚起して共に揺れを起こす例、親の不安が子どもを刺激してその問題行動を助長する例、親の事情が優先され親を支えることが過剰に子どもに求められる例など。

親は子どもだけでなく自身の揺らぎを感じつつ、そうゆうものと受け入れ、子どもとつかず離れずの距離から見守る関係が子どもの不安を和らげる。また、親も不安に思うことを無理に隠そうとしないことも良い。不安を子どもとオープンに共有しあえる関係は子どもに不安への向き合い方を直接伝えることができる。

さいごに

孔子は「四十にして迷はず(迷わず)」と言ったように、以前は中年期は暮らしに余裕が生まれ、生きる迷いの少ない時期と理解されてきた。しかし、実際は心身ともに健康を害しやく、家庭や職場における役割変化が起こり、様々な迷いが生じる時期である。

思春期には、子どもも揺らぐが親も揺らぐ。思春期の子どもの特徴を知ることは重要であり、それだけでなく親にとっても様々なストレスの多い時期であることを理解することも重要である。まずはその揺らぎを受け入れ、子どもが自律性を発揮できるような適度な距離感を保てるように心がけることが重要となる。

 

参考文献

『中釜洋子. 家族心理学. 有斐閣ブックス. 2008