家庭医の学習帳

千葉県のクリニックで子どもからご高齢の方を日々診療。心療内科・家族支援にも力を入れています。日々考えたことや勉強したことを綴ります。

認知行動モデルによる精神的苦痛とスピリチュアルペインの違いの考察

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緩和ケア領域で説明される全人的苦痛の四つの苦痛。この違いは何かという質問をよく受けます。
 
全人的苦痛は、身体的苦痛・精神的苦痛・社会的苦痛・スピリチュアルペインに分かれ、それぞれ分類されるとされます。
 
 
特に難しいのは、「精神的苦痛」と「スピリチュアルペイン」の違いです。昨今は説明をする様々な本もあります。
 
先日高校生への講義でがんとストレス・認知行動療法について同時にお話をする機会があり、その関連性を自然と考えていました。
 
「精神的苦痛」と「スピリチュアルペイン」を認知行動療法の理論背景の「認知行動モデル」から一つ捉えてみようと思います。
 
認知行動モデルでは、人が何かしらの行動・感情を覚えるときに、そこに「何かしらの考え方」があるとしています。
 
それは意識している、していないに関わらずです。
 
例えば、テストで60点を取ったとき、人によっては、60点も取ったと「嬉しい」かもしれませんし、60点しか取れなかったと「悲しい」かもしれません。
 
その感情の反応の違いは、その感情が芽生える前にある考え方から生じています。前者は、「今まで60点の点数が取れなかった」ので嬉しいかもしれませんし、後者は、「親が80点以上取らなければ怒られる」から悲しいのかもしれません。
 
そして、その反応する前の考え方を「認知」と言います。
 
認知は、生来の性格もありますし、生まれ育った環境・宗教・哲学、さらにはそれまで培ってきた経験が影響を与えています。
 
認知はその人にとって、考え方の癖のようなものなので、根深いものです。それを変えるのは、癖を変えるようなものなので苦痛を伴うことが多いです。
 
ここでポイントなのが、人の反応の中で、「感情」や「行動」に対して「認知」はより深く、その原因となることです。
 
全人的苦痛に話を戻すと、精神的苦痛は「感情レベル」での反応のことであり、スピリチュアルペインは「認知レベル」での反応に近いなと思いました。
 
自身の身に備わった癖が全否定されるとき、そこには大きな苦痛が生じ、人によって
は、自分のすべてを否定されるように感じます。また、自身の認知で想定できないことが起こると、そこに「意味」を見つけることができず、苦痛を感じます。
 
そして、認知レベルの問題に関わる場合、医療者はデリケートな対応が必要となります。決して否定することなく、共感を示しながら、ともにその考えに向き合っていくことが必要になります。
 
「スピリチュアルケア」に関わるものもやはり、決して否定することなく、共感を示しながら、ともにその考えに向き合っていくことが必要になります。
 

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