家庭医の学習帳

千葉県のクリニックで子どもからご高齢の方を日々診療。心療内科・家族支援にも力を入れています。日々考えたことや勉強したことを綴ります。

2021年度 心療内科での診療を振り返って(10-12月)

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2021年4月より心療内科での診察に週2-3日携わるようになり、9ヶ月ほど経ちました。家庭医としても精神疾患心身症の方の診療はしておりましたが、それでもなお心療内科での診療は日々勉強になることばかりです。

4-9月の学びは以前ブログでまとめてみました。 

kamenokodr.hatenablog.com

10月からは1人で診療を任せていただくことが増え、他科から紹介いただくようになり、様々な学びや気づきを得てることを実感しています。ここ3ヶ月で学んだことを3つにまとめてみました。

感情を治療に結びつけることの重要性

精神疾患の患者さん関わる中で、悲しみ・抑うつ・怒り・不安などといった様々な感情に触れます。今までも感情を受け止めることは何とかできていたとも思ってはいましたが、どこか感情に向き合うことに消極的でした。

そこを指導医の先生には指摘され、感情をもっと外来でうまく扱うように言われました。悲しみ・抑うつ・怒りなどの感情表出は、その時は患者さんに強い精神的負担を強いるかもしれませんが、長い目で見れば治療に非常に有効なことも多いです。

心療内科の観点からすると、むしろ感情表出が難しい患者さんのほうが、それを積極的にする方より治療が難しいことが多いことを経験します。感情表出をしないというのは一見安定しているように見えますが、自分の感情に無自覚であることや、感じている感情に向き合うことを何かしらの理由で無意識にも回避していることが多いからです。

感情表出できるということは、自身の内面に自覚的であるという意味で健康的ともいえます。感情が動いた理由や背景を治療者が丁寧に扱うことで、患者さんの内面の深いところまでを扱える可能性があり、治療を進める糸口になりえます。

そう捉えてからは、患者さんの感情表出は治療を進めるチャンスと思えるようになり、少しは積極的に扱えるようになってきたように思います。また、感情表出がうまくできない方は、患者さんが本当は感じてるであろう感情をこちらが言葉にすること(反映)も意識するようになってきました。

今振り返ると、感情を扱うのに消極的であったのは、表出された感情が自分に向けられているのではないかと、どこか恐れを抱いていたのかもしれません。

コンサルテーションは誰が困っているのか?真の紹介理由が大切

院内の心療内科をしていると他科から様々な紹介や相談をいただきます。私が働いている心療内科では心身症以外にも、うつ病パニック障害・身体症状症・認知症など様々な精神疾患の患者さんをご紹介をいただきます。

医師間のコンサルテーションというと、診療して診断と治療方針を決め、当科でも診察を継続するか、こちらの考えやアドバイスを紹介医にお伝えし、何かあったら再度受診いただくようにするかの判断をすることが主な役割と考えていました。

しかし、様々なコンサルテーションをいただき、指導医の先生とのディスカッションの中で感じるのは、コンサルテーションの裏には単に患者さんが困っているだけでない「真の紹介理由」があることです。

患者さん以上に家族が困っている場合、主治医の先生が困っている場合、患者さんが実は主治医との関係性に困っている場合、支援者同士の関係のトラブルに患者さんが巻き込まれて困っている場合など、実に様々です。

実際に紹介状の文面に表れないことが多いので、受診された患者さんとの対話の中で嗅ぎとることが大切です。さらに、指導医の先生は、その調整に家族療法を代表とする「システム・アプローチ」の視点・手法を活用されており、非常に勉強になります。

患者と医療者や支援者との関係を一種の「拡大家族」のように扱いながら関わるコンサルテーションは大変興味深く、その観点からのアプローチを深めていきたいです。

性格の考察と許し

心療内科では、患者さんから様々な悩みの相談をいただきます。その中でよく患者さんからいただく質問に「私の性格を変えた方が良いですか?」「私の性格でどこがダメか教えてください」というのがあります。

当初はこの質問を受けたとき「そんなことないですよ」「そのままでいいじゃないですか」と少し取り繕いながら返答をしていました。内心は、どのように返答したら良いか正直分からず困っていました。自分自身も、嫌なところがあれば変えていきたいし、そう思ってもしょうがない、と自分の姿と重なって返答しづらかったのだと思います。

しかし、診療でいろんな方と関わる中で感じたのは、性格には嫌だなと思うところもあるし、辛い時はどうしても嫌な部分ばかりに目がいってしまいます。けれど、それ以上にその性格だったからこそ普段は助けられられていることもたくさんあり、そう考えると性格を大きく変える必要はないし、そもそもそれは難しいです。

最近は「私の性格を変えた方が良いですか?」と聞かれたら「性格を変えるのは難しいし、それ自体で救われてきたことも多いのではないですか?大きく変える必要は果たしてあるのでしょうか?」と伺い、その上で「ただ、性格で陥りやすい罠もあるので、それを多少知って微調整できたらなお良いですね」とお伝えするようにしています。

私も自分の性格について、嫌で変えたいと思うこともたくさんありました。しかし、こう捉えられるようになってから、自身の性格を少し受け止められるようになってきたような気もして、生きることにも力が少し抜けるようになったように思います。

さいごに

心療内科への相談の多くは、誰しもが考えたり、経験するようなことの方がむしろ多く、生きていく中で誰しもが心を病む可能性が十分にありうることを診療の中で強く感じます。そういう私も、明日は我が身と感じることも多いです。

むしろ、心を病むということは生きる上で大事なことであるとさえ思えます。心が病む中で、自身を振り返るきっかけとなり、今後の生き方の再調整の機会にもなります。その経験は絶対に無駄にはなりません。その手助けを今後もしていきたいです。

さいごまで読んでくださりありがとうございました!