家庭医の学習帳

千葉県のクリニックで子どもからご高齢の方を日々診療。心療内科・家族支援にも力を入れています。日々考えたことや勉強したことを綴ります。

2021年度 心療内科での診療を振り返って(4-9月)

MacBook Pro near white open book

2021年4月より心療内科での診察に週3日携わるようになり、半年ほど経ちました。振り返ると、日々勉強になることばかり。正直、診療を始める前にも、精神疾患心身症の診療は自信がそこそこあったし、メンタルヘルス領域の勉強もしていたのですが、想像以上にできておらずだったことに直面し、辛い期間でした。

 

どこかで学びをまとめようと思っていましたが、なかなか気持ちの余裕が持てず、また言葉にするには学び足りないことも感じており、書けずにいました。最近なんとなく診療の全体像が見え、ひと段落の感じもしてきたので、5ヶ月の診療期間を一度振り返りたいと思います。

 

以前、心療内科での実際の診療について掲載しました。

本記事では特に学んだことを3つだけまとめてみました。

 

 

精神疾患に対する基本的な知識(診断・経過・治療)

一言で心療内科といっても、診察している疾患は医療施設によって異なります。私が診療している心療内科では、心身症のみならず、神経症圏の精神疾患の患者さんの診察もたくさん行なっており、それが非常に勉強になりました。

 

実際に診察した患者さんの診断をざっと挙げると、うつ病パニック障害全般性不安障害・身体症状症・適応障害摂食障害・機能性ディスペプシア・過敏性腸症候群起立性調節障害などです。

 

今まで家庭医の診療の中でも精神疾患の方には関わっていたのですが、正直、診断に自信を持つことがあまりできませんでした。確認しようにも、専門家の方が周りにおらず、自分の診断が正しいのか、修正した方が良いのか曖昧でもやもやすることも多かったです。例えば、抑うつ気分を訴える方が、うつ病なのか、適応障害なのか、はたまた抑うつ症状を訴える身体症状症患者なのか。

 

診療の中で、診断についてディスカッションすることで、各々の典型な例と非典型的な例を知ることができました。精神疾患は治療の過程で、疾患ごとの典型的な経過を辿ります。様々な症例を経験することで、経過を体感することができ、治療がうまくいかない場合の違和感を早く察知することがいくらか可能になったように思います。

 

また、治療がうまくいかない場合は、今までは専門医へ紹介していました(プライマリ・ケア領域ではそれで十分なのだと思います)が、一旦立ち止まって、診断が違うのか、パーソナリティが関連するのか、語られざる隠れた心理社会的問題があるのか、考えを巡らせることができるようになりました。

 

さらに、薬物療法について、神経薬理までとことん学ぶことができ、特に、初期治療がうまくいかなかった時にどのように薬を変更したり、どんな薬を追加するのか、いくつかの選択肢を持つことができました。例えば、うつ病の方にSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)を処方しても症状の改善が乏しい場合のベンゾジアゼピン系薬剤や抗精神病薬の併用方法などです。

 

心理療法や疾患教育の実践的な面接指導

指導医の先生が心療内科についての説明するときによく「心療内科は、法をする内科」と話されており、なるほどと思ったのですが、外来・病棟の診療の中に心理療法のエッセンスを混ぜながら診察をしています。

 

お世話になった指導医の先生は主に、精神分析・動機づけ面接・認知行動療法・家族療法にについての造詣が深く、指導医の面接に陪席したり、直接面接の指導をいただくことができ、実際の面接の様子を学ぶことができました。

 

個人的に心理療法には関心があったので、事前に色々と勉強をしていたのですが、理論を知っているということと、実践できるということはかなり差があることを感じました。心理療法は、プライマリ・ケアの現場でも有用と思うことは非常に多いのですが、適応や方法の実地訓練を受けないと、我流になってしまいがちで、逆効果にさえなるとも思います。

 

そもそも、心理療法も大事ですが、それ以前の患者さんへの疾患教育が非常に大事です。指導医の先生に何度も言われたのが、「疾患教育はすでに認知への介入」です。日本では、精神疾患は全般的に「自己責任」「心の弱い人がなる」「一生治らない」といった偏った見方がまだまだ強いです。

 

そのためか、受診された患者さんにも「何を言われるんだろう」と不安に思っていたり、「精神疾患と言われたら自分はもうダメだ」と悲観的に捉えていたり、「自分は精神疾患ではない」と否定されたい患者さんも多くいらっしゃいました。患者さんの疾患に対する考え方も大切にしつつも、受け入れやすい形で疾患のメカニズムや治療方法をお伝えすることで、患者さんに安心感が得られたり、治療に前向きになっていただくために非常に大切です。

 

また、患者さんの性格(パーソナリティー)に合わせて面接することも重要です。例えば、責任感が強い方には「外在化(他にも原因がある)」して本人だけのせいでないことを強調し、疾患を受け入れやすく説明したり、回避的な方には「内在化(本人にも原因がある)」して伝えないと、治療意欲が出てこないこと(主体行為性)があります。伝え方をパーソナリティーに応じて変化させていく、緩急を学ぶことができました。

 

自身を振り返り私的な課題に向き合う体験

心療内科に来られる患者さんと向き合うと、自分の様々な内面の課題に直面化させられます。それは、辛くもありますが、もっとも成長を感じるところでした。

 

共感することの壁

面接の指導を受ける中で、自分のコミュニケーションの限界を知りました。傾聴や共感することくらいはできると思っていたのですが、共感もまだまだ表面的で、指導医からは「深く共感をしなさい」と何度も言われました。

 

深い共感とは、相手の葛藤まで焦点を当てる共感です。人には誰しも二面性があり、表面的な言葉の背後に葛藤を抱えていることが多いです。「頑張ります」と言っていてもどこか不安が残っていたり、「もう無理」と言っていてもどこか頑張りたい気持ちが残っていたりと。その根底の葛藤まで共感できることを「深い共感」と言い、それができるように何度も指摘されました。

 

例えば
「頑張りたいけれど、不安もやっぱりあるよね。」
「本当は頑張りたいけれど、壁が高いと無理だと思ってしまいたくなるよね。」
のようにいかに声をかけられるかが重要です。

 

「追従」でもなく「指示」でもなく「誘導」

また、私自身、面接の中で共感ばかりに偏る「追従」的な面接をとりがちでした。追従的な面接は、関係を築くことはできるのですが、患者さんと一緒に迷走してしまいやすく、なかなか治療が進まない行き詰まりを感じることが多かったです。

 

振り返ると、私は家庭医の外来で、かかりつけ医としていかに良好な関係性を続け、何でも相談しやすい場所としてあり続けるかを重視してきました。その中で健康や病気について指導する「指導」的面接も行ってきましたが、中には医療者から強く言われることで、陰性感情を持たれ、通院されなくなる患者さんとも何度か出会ってきました。

 

そこで関係が途切れてしまうよりは、関係が続いた方がと思い無意識に取った面接戦略が追従的面接を増やすということだったように思います。指導医にはそこを指摘され、関係性を壊さないだけでなく、変化の種をもっと積極的にまくように言われました。

 

そこで、教えてもらった第三の面接スタイルが「誘導的」面接でした。誘導的コミュニケーションは、患者さん自身の変化への動機をいかに発見し、その変化したいけれどできない葛藤に焦点を当て、自身で解決ができるように導き、支援する面接のことです。

 

実際の面接では、場面によって追従・指導・誘導的なコミュニケーションを使い分けることになりますが、誘導的コミュニケーションを意識して増やすことで、診療の幅が広がったように思います。

 

自分の性格(パーソナリティー)について

心療内科には様々な悩みを持つ患者さんが来られます。中には自分と似た悩みであったり、それ以上に高度な悩みをもたれる患者さんもいます。色々な悩みを聞きながら、様々な感情や考えが思い浮かんできます。必ずしも良い感情や考えだけではありません。

 

そんな中で余裕を持って面接に臨むには、自分自身についてよく把握し、湧いてくる感情の由来や自身の課題を認識する必要があります。自身の性格や対人関係、仕事や家族に対する向き合い方など様々なことについてなど、自分自身について色々と考えさせられました。それは辛くもあり、落ち込むことも多々ありましたが、なんとなく突き抜けた後は爽快感も伴う貴重な体験でした。

 

さらに、診療しながら「健康的な人格」について考えさせられました。日々生活していると様々な困難があり、時には解決不能なように思える課題が幾重にものしかかる時があります。その時にどのように向き合い、対応するかが、健康的な人格においては重要で、自分自身まだまだということを痛感します。もっと人として成長をしたいということを診療の中で感じました。

 

さいごに

この半年の心療内科での学びを振り返ってみましたが、とてもたくさんのことを学んだなと改めて思いました。メンタルヘルス領域は、非専門家が独学で学ぶには限界があり、専門家のバックアップの元実地で学ぶことが非常に大切と痛感します。

 

それは、心の病を抱えた患者さんには医療者のコミュニケーションの仕方が治療経過に強く影響するので、実践的な面接指導が必要だからです。さらに、医療者自身も患者さんから強い影響を受け、時には様々な感情や考えを抱きますが、それを自身や非専門家だけで解消するには限界があるように思うからです。

 

改めて自分がこのような貴重な診療の機会を得られたことに感謝します。

 

さいごまで読んでくださりありがとうございました!
気に入った記事であれば星マークをクリックいただけると嬉しいです。