家庭医の学習帳

千葉県のクリニックで子どもからご高齢の方を日々診療。心療内科・家族支援にも力を入れています。日々考えたことや勉強したことを綴ります。

少子化について生物進化学の観点から考えてみる

「生物は繁殖を高めるのに、ヒトはなぜ少子化を辿るのか」
この問いは少なからず誰もが考えたことがあるのではないでしょうか。先日人類学者の方のオンライン講演で「進化生物学」の観点から少子化を紐解いており、非常に面白かったです。
 
「K型・r型進化」「エフォート」の二つの観点から話をまとめてみました。
 

「K型・r型進化」のはなし

ヒトの少子化の根拠の一つに、生物には「K型進化」と「r型進化」があり、ヒトは極端な「K型進化」をする生物であることが挙げられていました。
 
K型進化:「環境が飽和した状態」では、一つ一つの子どもに資源をたくさん持たせて競争力を強くするのが有利。そうすると子どもの数は少なくなる。(少産少死)

r型進化:「環境が飽和していない状態」では、できるだけたくさんの子を生産して、その中で生き残る子に賭ける。そうすると子がもつ資源は少なくなる。(多産多死)
 
哺乳類は全体としてK型進化で、霊長類は中でも極端なK型進化。ヒトは、近代までは乳児死亡率が高いため、r型の要素もありましたが、現代ではもっともK型進化になっています。
 
文明が発達すると、就業競争が起こり、競争力を身につけるためには一人の子どもに対する投資が大きくなり、産む子どもの数は減るとのこと。出生率(女性1人が出産する子どもの平均人数)が2.1を下回ると、人口は減少に転じます。
 
 

「エフォート」の話


さらに、少子化・人口減少のもう一つの理由として挙げられていたのが、エフォート(利用できる時間とエネルギー)の比率の変化。一生涯で使うことができるエフォートは決まっており、生物は「自己維持」「成長」「繁殖(子育て)」の3つのエフォートに分けることができます。
 
現代の社会は、キャリア・学習・趣味などの自己実現の選択肢が多くに時間やエネルギーがそこに割かれやすい社会のため、「自己維持・成長エフォート」が増大しているといえます。
 
エフォートの総和は決まっているので、繁殖のエフォートは減少します。さらに、自己維持・成長エフォートの増大は、親になったらたくさんの投資をしなければいけないという負担感・不安感につながり、より子育てから回避的になります。
 
 

さいごに

乳児死亡率が下がると持ちたい子どもの数は減り、飽和社会で競争的環境にになると、子どもに対する投資が大きくなり、さらなる子どもの数の減少につながります。
 
また、自己投資が進むと、子育てへ割く時間とエネルギーは減り、さらに現在の自身への自己投資の増大は、未来の子どもへの投資への義務感になります。
 
少子化を考える上で、子どもを持つこととはどのような意味があるのか?の意味をもう一度見つめ直す必要があるなと思いました。