家庭医の学習帳

千葉県のクリニックで子どもからご高齢の方を日々診療。心療内科・家族支援にも力を入れています。日々考えたことや勉強したことを綴ります。

【書評】「働き方5.0」 落合陽一著

はじめに

「AIによって人の仕事は取って代わられる」と最近よく聞かれますが、医療の仕事でもよくその話は聞き、最近少し考えます。筑波大学の教員であり、メディアアーティストの落合陽一が書かれた「働き方5.0」を読み、とても面白かったのでまとめてみました。
 
 
 
 
落合氏は、この本の中でこれからの時代必要なのは、「専門的な暗黙知をもつクリエイティブクラス」と結論づけています。
 
 
昨今、教育界では学力といった「認知能力」ではなく、それ以外の「非認知能力」に注目を集めています。その文脈でいうと「非認知能力」を基本に持ちつつ、ニッチでかつ裾野の広い「認知能力」を持つ人材が必要ということだと思います。
 
 
その上で、どのようなことが能力・人材が必要になってくるのか、それを身につけるにはどうしたら良いのか。以下書籍を要約しながら紐解いていきます。
 

 

要約

2016年からよく目にするようになった言葉に「Society 5.0」という言葉があります。科学技術基本計画で提唱されたもので、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」とされています。
 
 
これまでの「狩猟社会(Society 1.0)」「農耕社会(Society 2.0)」「工業社会(Society 3.0)」「情報社会(Society 4.0)」に続く新たな社会の姿です。著書では、その中でヒトはどのように働いていくかということを中心に書かれたものです。
 
 
情報社会の世界では「たくさんの情報をいかに早く効率的に処理するか」が求められてきました。しかし、IoTや人工知能を応用すればシステムが代行するようになる可能性が高いです。
 
 
それでは「次の世界」ではどのようなことを学ぶべきでしょうか?落合氏は著書の中で「コンピューターには不得意で、人間がやるべきことは何なのか」を模索することがまずは大切としています。
 
 
 
一つの働き方のヒントとして提唱しているのは社会学者リチャード・フロリダ氏が提唱した「クリエイティブ・クラス」という働き方です。クリエイティブクラスとは簡単にいうと「創造的専門性を持った知的労働者」のことです。
 
 
クリエイティブ・クラスの難点は「ロール・モデル」が存在しないことです。アップル創業者のスティーブ・ジョブスは間違いなくクリエイティブ・クラスといえるでしょう。しかし、彼のようになりたいとして模倣しても、唯一無二の存在だからクリエイティブ・クラスであって、独自性がないものはそうは呼べません。
 
 
それではクリエイティブ・クラスとしていきていくなら、どんなことを学んだら良いのでしょうか。それは単に勉強するだけではなれません。大切なのは、誰も気づかなかった問題がそこにあることを発見することです。
 
 
それを見つけるのに落合氏は5つの問いをすることを紹介しています。
 
・それによって誰が幸せになるのか。
・なぜ今、その問題なのか。なぜ先人たちはそれができなかったのか。
・過去の何を受け継いでそのアイデアに到達したのか。
・どこにけばそれができるのか。
・実現のためのスキルは他の人到達しにくいものか 

そして、自身の問いを見つけたらそれをどう具現化するかですが、そこには以下の「武器」が必要です。
 
言語化する能力
・論理力
・思考体力
・世界70億人を相手にすること
・経済感覚
・世界は人間が回しているという意識
・専門性

 

中でも重要なのは「専門性」としています。小さなことでもいいから、「自分にしかできないこと」は、その人材を欲するに十分な理由になります。

 

さいごに

現在、私は家庭医としてかかりつけ医の仕事をしています。患者さんと接する時間は短いのですが、その中でもたくさんのことを確認したり、記録しなくてはいけません。しかし、コンピューターのシステムに移譲できることも多く、それをすることで本当の意味で目の前の患者さんに集中できると思いました。
 
また、人の人生に関わりたいと思い、かかりつけ医の仕事をしています。その中で、自分自身にできること?なぜそれを自分がやるのか?今一度考えたいと思います。