家庭医の学習帳

千葉県のクリニックで子どもからご高齢の方を日々診療。心療内科・家族支援にも力を入れています。日々考えたことや勉強したことを綴ります。

支援者向け親子講座(小さな子どもがいる家族編)開催

2月11日に支援者に向けて親子講座を開催しました。実際に長年家族支援をされているベテランの方もいらっしゃると伺い、講座開始前にすごい緊張を。

今回は「小さい子どものいる家族の変化と課題」を主にお話ししました。

内容

家族をどう捉えるかに関しては色々な理論がありますが、今回は「家族ライフサイクル」をテーマにお話ししました。

家族ライフサイクルとは家族にはある程度共通した変化です。7つの段階に分けられ「成人形成期」「カップル形成期」「小さい子どものいる家族」「思春期の子どものいる家族」「巣立ち時期」「中年後期」「終末期」があります。

各段階に課題があり、それを乗り越えることで家族は成長できます。逆に、うまく乗り越えられないと危機に陥ります。どのようにして家族ライフサイクルごとの課題を調整していくかが重要です。

「小さい子どものいる家族」の課題として4つが挙げられています。

・子どもを支えるカップル・システムの調節
カップルの子育て、家計、家事の協働
・親と祖父母の子育て役割を含む拡大家族との関係の再構築
・新たな家族構造と関係を包含するためのコミュニティ・社会との関係の再編成

Monica McGoldrick. The Expandind Family Life cycle 5th ed. Person. 2016より

講座ではこれらを経験や文献をもとに一つ一つ細かくお話ししました。

 

質問

講座中には様々な質問が寄せられました。回答も含めて紹介します。

 

Q)子どもが嘘をつくようになってきたとき親としてどう向き合っていくのがいいのでしょうか。

嘘は心理学的には「自分を守る行為」で、専門用語では「防衛機制」といいます。嘘をつかれると、親としては悪いことだとまず叱りたくなる気持ちが湧くものです。しかし、それ以上に嘘つかざるを得ない事情に思いを馳せ「何があったの?」と尋ねると良いでしょう。

 

Q)イヤイヤ期の子どもとの向き合い方を知りたいです。

イヤイヤ期で困る癇癪は本人が本当はやりたいことがあるけれどできない、わかってもらえない、それを表現できないことからくることが多いです。

親も癇癪があるとイライラすると思いますが、子どもにやりたいことがあるというのは主体性がある証ですので、まずはそれは強みなんだと捉え直すと良いでしょう。

その上で大人が「こうしたいんだよね」「こう思っているんだよね」と言葉にすることは大事です。親が子どもの考えていること、感じていることを想像したり表現することを「メンタライジング」といい、子どもの精神状態を安定させるとされます。

いけないことをしている場合はダメと伝える必要がありますが、伝え方のポイントがあります。「落ち着いて」「何度も」「理由もつけて」伝えると良いでしょう。度がすぎる場合は叱ることも必要ですが、叱ることに親は罪悪感を感じすぎないことが大切です。叱ることは親の価値観を学ぶことにつながります。

 

Q)子どものことで夫婦の価値観が異なる時、どのようにすれば良いのでしょうか。

子育ての価値観が互いに異なることはよくあります。その時に、どちらも「自分のやり方が正しく、パートナーも自分と同じように対応すべきだ」と考えがちです。しかし「どちらが正しいか」という認識は、葛藤を増やすことになっても問題解決には至らないことが多いです。それよりも、親がさまざまな価値観や方法を持っていることは子育てに色んな選択肢と可能性をもたらしてくれます。

でも、両親で違うことを言っていたら子どもは迷うのではないか、親それぞれに気を使う子どもになるのではという意見もあるかもしれません。確かに、親が価値観が異なることでいがみ合っていたらそうなってしまうかもしません。

しかし、親が意見が異なっていても互いの価値観を認め許容しあっている、その姿勢は子どもに価値観の多様性や異なる意見に対してどのように向き合うのか、ということを教えてくれます。それは何よりも重要な教育ではないでしょうか。

 

Q)小さな子どもにできる性教育はなんでしょうか。

「プライベートパーツ(ゾーン)」をまず伝えると良いでしょう。プライベートパーツとは、具体的に口や胸、性器、おしりといった場所です。ここを子どもに適切に伝えることで、性犯罪や性関係から身を守ることができます。

表現が直接的すぎる場合は「口と、水着を着たときに隠れる場所」と教えてあげると良いでしょう。また「自分だけの身体の大切なところ」なので、人に見せたり触らせたりしないこと、他の人のプライベートパーツは見てはいけないし触ってもいけない、と伝えると良いでしょう。

幼少期の子ども(3歳~6歳頃)になると、ふざけて自分の大切な部分を見せたり触ったりして、楽しそうにする姿が見られるようになります。これは身体の違いに興味が出てきてはいるけれど、まだプライベートパーツの意味を理解していないためです。しかし、プライベートパーツを教えていくのはこの年齢からでも遅くはありません。

 

Q)どうやって性について説明し、その大切さを教えたらいいでしょうか。

性のことに限らず、大切なことを伝えるときは「何を言うか」以上に「誰が」「どのように」言うかの方が大切です。

大切なことをしっかりと伝えられるようにするためにも、普段から対話ができるような関係であることが大切です。また、どんな内容でも落ち着いて話すことが重要です。コミュニケーションでは言語的メッセージより、非言語メッセージの方が多くの情報を与えます。感情的や投げやりに話すとどんな内容でもうまく伝わりません。大切なことを話す際は、親が時間や心の余裕を持って話すことを心がけると良いでしょう。余裕を持って伝えられない場合は「また後でね」と仕切り直して伝える事がオススメです。

また、何かを伝える際は「Iメッセージ(私はこう思う)」を使うことで、相手と自分に程よい距離感を与え対話になりやすくします。そして、どんなに小さな子どもでも意見を持っている可能性を考え、その意見が例え親と異なっていても否定せず、まず尊重していくことが重要です。気になるならば、そう考えた理由を聞くと本人の理解につながるでしょう。

感想

講座後には様々な感想をいただきましたので、いくつか紹介いたします。

・子育てはまず、夫婦関係がポイントであるなと思いました。夫婦での子育ての役割分担という以前にまず、夫婦の間では関係性が大事なのだと気付かされました。

・夫と妻間の子育てにおける価値観の違いも夫婦の関係性や伝え方を大切にすれば、子供にとってより多くの価値観を受け入れられる子になるというのが興味深かった。一つのことを多角的に捉えることが柔軟な姿勢の一つかなと思いました。

・家族では適度な距離感、柔軟性が大切という言葉が印象的でした。 その言葉を胸に自分も家族も大切にしていきたいです。

・子どもに何かを伝える時には、「何を」伝えるかよりも「誰が」「どのように」伝えるかが大切。という内容が印象的でした。 子どもの躾や教育にもとても参考になりますが、夫婦関係や職場での人間関係にもすごく参考になるなと思いました。

・子育てにおいて、正解を押し付けるのではなく相手をまず受け入れていく姿勢が最初にあってこそ話を導くことができるんだなと思いました。自分の子供にもそうですし、相談を受けたときはその方に対してもそのような姿勢を大切にしたいと思いました。

・その子に必要だからその子は嘘をついている。嘘をつくこと自体は悪ではない。 これは改めて言われるとすごく納得しました。思わず“嘘をつく=悪いこと”と思いがちだし、そのように子どもにも言ってしまいそうですが、嘘をつくことで何を守ろうとしているのか、それをしっかり聞いて理解できる親になりたいなと思いました。

 

私も参加者の皆様から色々と教えていただき、とても充実した時間した時間でした。一つでも参加者の皆様の心に残ったものがあれば嬉しいなと思います。