はじめに
今までの日本の教育は知識・技術に偏った教育をしてきました。
しかし、それだけでは今の時代は乗り切れないことはおおよその人が思っています。
人工知能やIoTが発達し、
知識や技術はロボットの方が人間より正確かつ早く対応できると言われ、
人の役割は変化しつつあります。
また、予測不能なことが増えてきた世の中で、
特定の知識や技術だけでは生きることはできず、
考える能力、チームを作る能力などが試されるようになってきました。
そこで、必要と言われているのが「非認知能力」です。
中山芳一著「学力テストで測れない〜非認知能力が子どもを伸ばす〜」を本ブログでは紹介します。
非認知能力とは
非認知能力を世界で初めて提唱したのは、
2000年にのノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・J・ヘックマンです。
彼は、幼稚園で実施されていた就学前プログラムの研究を行なっていました。
とあるプログラムが提供された子どもとそうでない子どもを成人になるまで追跡し、
収入・学歴・犯罪率まで調査をしました。
すると、プログラムを受けたこと子どもの方が年収や学歴が高く、
犯罪率は低いことがわかりました。
さらにそこで分かったのは、その要因として重要だったのは、
IQの高さではなく、数値化が困難な力の獲得・向上にあったことです。
それを、ヘックマンは非認知能力と提唱しました。
①目標の達成:目標を達成するための力
・忍耐力:自分の欲求や衝動を我慢できる力
・自己抑制:自分の感情や行動をコントロールできる力
・目標への情熱:目標達成に向かうための情熱や意欲
②他者との協働:他者と協働するための力
・社交性:他者と友好関係を結べる力
・敬意:他者を敬うことのできる力
・思いやり
③情動の制御:自分の感情をポジティブにコントロールできる力
・自尊心:自分自身を肯定的に見つめられる力
・楽観的:様々なことを楽観的に捉えられる力
・自信:自分の資質や能力を信じることのできる力
しかし、このような力は以前から重要だと指摘されてきました。
なぜ今注目注目を集めているのでしょうか。
なぜ今、非認知能力なのか?
本書では主に2つの理由を挙げています。
①AIの発達のため
現在私たちの周りには、人工知能やIoTなどが溢れ、
様々なところで生活の変化が起こっています。
今まで人間がやっていたことが、AIに取って代わり、
「AIによって仕事が奪われる時代」とも言われています。
実際に、四六時中、状況や情報を正確に管理し、
的確な指示を出せるような「管理能力」は、多くの人間たちよりもはるかにAIの方が優れています。
これからの人の役割はどうなるのでしょうか。
落合陽一氏によると、AIの時代に人に必要な役割は、2つあると述べています。
1つは、「現場実践・実働」クラスであり、現場で働き判断することは人間の方が優れていると述べています。
そして、もう1つは「クリエイティブ・クラス」です。人間だからこそ、誰かを幸せにしたい、世の中をより良くしたい・・・などの意欲を持つことができ、そのために想像力を発揮することができます。
AIは、確かに、知識と知識を組み合わせて、新しい知識生み出せるようになりましたが、
意欲や想像力は人間の専売特許です。
②予測不能な時代(VUCA時代)に突入したため
VUCA(ブーカ)とは4つの単語
V olatility(変動性)
U ncertainty(不確実性)
C omplexity(複雑性)
A mbiguity(曖昧性)
から頭文字をとって作られた単語であり、現代のカオス化した経済環境を指す言葉です。
VUCAはもともと1990年代にアメリカの軍事領域において用いられてきた言葉ですが、
昨今、経済、企業組織、個人のキャリアにいたるまで、ありとあらゆるものを取り巻く環境が複雑さを増し、将来の予測が困難な状況にあります。
VUCAの時代に必要な能力として、知識だけでなくCCR(Center For Curriculum Redesign)という国際的な組織団体は、
「教育の四次元」として四つの要素をあげています。
・知識:何を理解しているのか、学際的知識・伝統的知識など
・スキル:理解していることをどのように扱うか、思考力・創造力・コミュニケーションなど
これはすなわち、認知能力のみならず、非認知能力を高めることと同じことを述べています。
非認知能力を育むために
非認知能力の重要性について述べてきましたが、
どのように育めば良いのでしょうか。
非認知能力を獲得・向上するためには、
様々な「体験」を通じて学んでいく必要があります。
しかし、体験だけでは不十分で、
体験した中で気づきや発見につなげていくことが必要です。
体験が自分の中で内面化することを「経験」と言います。
さらには、経験に基づいてこれから必要となる教訓を導き出し、
内面化された他の経験や外部から取り入れた知識・情報などと関連づけて、
共通点や相違点を見出したりすることでようやく「学び」になります。
すなわち、
体験→経験→学び→能力獲得
このサイクルが大切になります。
その上で筆者は重要なポイントとして4つを挙げています。
①体験は量を増やすよりも質を高める
たくさんのことを体験するよりも、少ない体験でもやり抜くことが大事です。
やり抜いた経験は本人の自信にもつながり、さらなるやり抜く力(持続力)の獲得・向上につながります。
②PDSAサイクルを回し、やりっ放しにしない
様々な業界で「PDCAサイクル」は有名ですが、筆者は教育においては「PDSAサイクル」が大切と述べています。
Plan 明確な計画を立てる
Do 実行に移す
Study 振り返る・検討する
Act これからの改善を見出し実行する
の頭文字をとっています。
非認知能力は学校や授業のみならず、「生活全体」の中で学んでいきます。
日常的な様々な体験を学びに生かすためにはPDSAを常日頃から行うことが大切です。
③遊びを大切にする
お茶の水女子大学の研究に興味深い調査があります。
我が子の幼児期の頃に、
「思いっきり遊ばさせてきた」
「遊びでは自発性を大切にしてきた」
「好きなことに集中して取り組ませた」
と回答した保護者の方が、子供を認知能力が求められある難関大学へ合格させている率が明らかに高くなっていました。認知能力と非認知能力の相互作用の重要性を示している興味深い調査です。
さらに、遊びの中で子供たちはコミュニケーション能力を身につけることにもなります。
また、仲間たちと遊ぶためには「自制心」が必要であり、
新しい遊びを作り出す中で「想像力」も高められます。
何よりも新しい遊びの世界へ没頭した経験から、
「好奇心」や「楽観性」を身につけられるようになります。
④「遊びなさい」では遊びにならない
だからと言って「しっかり遊びなさい」と言って遊ばせる時点で「主体的な」遊びではなくなっています。
大切なのは、大人の一方的な価値観の押し付けではなく、
子どもが自らやりたい(やってみたい)と自己決定できる機会を作ることが重要です。
一方で大人からの情報提供は大切ですし、機会は大人にしか作れないことも多いです。
しかしその際も最終的な決定権は子どもに委ねることが大切です。
まとめ
いかがだったでしょうか。
非認知能力とは、
・目標を達成する力
・他者と協働する力
・自分の感情をポジティブにコントロールする力
で、これからのAIの時代・VUCAの時代には必要不可欠な能力となります。
そのためには、
・子どもの発達段階を意識すること
・PDSAサイクルを回すこと
・主体的な「遊び」を大切にすること
・子どもの自己決定権を大切にすること
などが大切と述べてきました。関心を持った方は是非本書を手にとってみてください。
皆様の子育ての参考になれましたら幸いです。