家庭医の学習帳

千葉県のクリニックで子どもからご高齢の方を日々診療。心療内科・家族支援にも力を入れています。日々考えたことや勉強したことを綴ります。

夫婦関係で陥りがちな「非合理的思い込み」

woman on bike reaching for man's hand behind her also on bike
 
人間関係で夫婦ほど難しい関係は少ないです。社会での関係は、相手の立場や都合を配慮して自分を制御することが比較的容易かもしれませんが、夫婦のような「親密な関係」では自分を制御するのが難しく、だからこそ関係を難しくしているともいえます。
 
親密な関係は「あなたとわたしが一緒」と感じるからこその幸せがある一方、融合するからこそ相手と自分の区別がつかなくなりがちで、その分相手や夫婦関係への期待も大きくなります。さらに、相手が応えてくれなければ生じる怒りも大きくなりがちです。
 
期待の背後には各々の夫婦関係の価値観があり、それは源家族との体験により形成され、その他教育やメディアの影響も強く受けます。価値観には良い影響を与えるものも多いですが、葛藤や関係にマイナスの影響を及ぼす「非合理的思い込み」もあります。
 
家族心理学では、比較的多い夫婦関係における非合理的思い込みについていくつかの文献で指摘されており、勉強になりましたのでいくつかまとめてみました。
 
①うまくいっている夫婦には葛藤や衝突はない。
→葛藤や衝突がないのではなく、それらを認識し、解決することを大切にしている。
 
②相手が自分を愛しているなら、言わなくても自分の気持ちや考えはわかってくれる。
→たとえ愛情に満ちた夫婦であっても、気持ちや考えを察するには限界がある。
 
③夫婦であれば言いたいことはなんでも言うべきだ。
→相手を大切に思うからこその受け入れられないことや傷つくことがあり、配慮が必要な時もある。
 
④自立している人は、人を頼ったり、甘えたりしない。
→自立とは孤独ではなく、程よく適切に依存できることであり、頼ることや甘えることはむしろ必要なことである。
 
⑤夫婦の関係がより良いものになるためには、相手が変わらなければならない。
→自分が変わることで関係が変わり、結果として相手が変わることはありうるが、相手に変われと願うだけで変わらない。
 
⑥夫婦で意見が食い違った時、どちらかが間違っている。
→相矛盾する両方が大切なことがある。例えば子供に対する甘さと厳しさなど。どちらが正しいということではなく、両方の視点や役割が大切であることが多い。
 
⑦パートナーとの間で問題が生じたら、実家を頼るのは当然である。
→実家を巻き込むことで、よりパートナーとの溝が深まる可能性があるので、注意が必要である。
 
いかがだったでしょうか。わたしも耳が痛いところが多分にありますが、これらを参考に日々頑張りたいと思います。
 
参考
野末武義. 結婚による家族の成立期. 東京: 有斐閣ブックス; 2019. 55-70. 中釜洋子. 家族心理学 家族システムの発達と臨床的援助.