【はじめに】
「不登校は病気ではないから治療すべきでない」
という意見がよくあがりますが、いずれも誤りだと思います。
前者は、やはり悪い循環に陥っているのであればやはり何かしらの介入が必要ですし、
後者は、その大半は家族で解決することもできるために、必ずしも受診は必要はありません。
逆に、受診することによって、本人は自分が精神疾患だと思うようになり、
自尊心を奪う可能性まであります。
では、不登校の治療についてどのように考えれば良いのでしょうか。
不登校のすべてを治療する必要はありませんが、
本人・家族に不登校をめぐる強い葛藤が続き、
それがすでに当事者の処理能力を超えていると判断された場合
に治療が必要となります。
前半はシステム論に基づいた不登校の原因について述べました。
後半はシステム論に基づいた不登校支援について述べていきます。
【不登校支援の概要】
不登校の原因はシステム論から捉えると、
「個人」「家族」「社会」という3つのシステムが接点を失い、それによる悪循環が起こっている
と述べました。システムが接点を失っているならば、それを取り戻すのが目標になります。
つまり、不登校支援の目標は、
親密な対人関係を「家族」と「社会(家族以外の他者)」に持てること
です。
そのため、支援も大きく「家族支援」と「社会支援」に分けられます。それぞれ述べていきます。
【家族支援】
子どもと家族の間で接点を失う大きな理由として、親子のコミュニケーションパターンがうまくいっていないことが挙げられます。
それは、本人と家族の間に会話がほとんどないこともありますし、
会話があっても、家族が本人に対して説教や叱咤激励によって、
本人にプレッシャーを与えていることもあります。
家族内のコミュニケーションエラーは本人が学校に行くことを一層難しくしています。
家族支援では、家族内コミュニケーションに変化を起こし、
問題の変化を引き起こす事を期待します。
それでは、支援目標、心構え、具体的方法について述べていきます。
支援目標
家族関係の再構築のまずの目標は、
本人が学校に行かなくても本人と家族がリラックスして、
たくさんの会話ができる関係になることが大切です。
それから、また社会につながる可能性が出てきます。
逆に、目標を “とりあえず再登校” にすると、
家族・支援者の関係をこじらせかねません。
また、例え再登校をしたとしても長続きせず、
その後は、さらに学校に行きにくくなります。
支援者の心構え
家族支援で大切な心構えを4点述べます。これは家族志向のプライマリケアの基本姿勢です。
①原因追求より解決志向である
支援者は、つい本人・家族に原因を求め、追及したくなります。
しかし、本人・家族もそれぞれすでに自分のせいに感じていることが多いです。
その中で、支援者が原因を追求することは、
本人たちの傷口に泥を塗りかねません。
支援者に必要なのは、“行けない原因を探すこと” よりも、
“行けない理由を解決すること” です。
②家族を非難しない
支援者は、経験があればあるほど、
本人の状況を家族以上に理解しているように“錯覚”します。
しかし、本人について最も側にいて、知っているのは家族であり、
子どもの問題解決に最も影響力を持っているのも家族です。
不登校は家族の力なしには解決できないですし、
家族自身の力でかなり解決する事ができます。
支援者に必要なのは、家族を非難するのではなく、
家族の問題解決の力を如何に回復するかが大切です。
③家族はすでに様々な解決の努力をしている
支援者は、本人・家族に対してついつい努力するように促してしまいます。
しかし、家族が相談に来るのは、すでにたくさんの努力をされ、
うまくいかなかった結果です。
家族は無力感や自責感を感じている事が多いです。
支援者に必要なのは、努力を促すことではなく、労うことです。
“問題が問題ではなく、問題解決が問題” と捉えることが大切です。
④家族と援助者の目標は必ずも同じでない事
支援者は、家族が別の目標を持っているとついつい修正したくなります。
しかし、家族には固有の歴史・文化・価値観があり、それが家族の目標を決めていることが多いです。
家族それぞれに “治りたいと思う治り方” があり、それを尊重した上で、どうするかを話し合う必要です。
具体的方法
学校に行かなくなった初期に大切なのは、家族や支援者から登校の話題をあまり扱わないことです。
登校刺激は最終的に必要ですが、初期に登校刺激をやめた方が良い理由は、
初期は周囲にも不安と焦燥があり、余裕をなくしている事が多く、
本人に対する一方的な説教・叱咤・激励になってしまうからです。
しかし、だからといって会話をしない事は本人にとってほっとかれていると思われ、本人と家族の関係性はどんどんと離れてしまいます。
そのため、信頼関係を構築するために、
登校に関係ない会話をどんどんと行う必要があります。
それによって家族の関係性はより信頼あるものと変化します。
同じ理由で、コミュニケーションは極力、直接の対話を行う必要があります。
直接の対話に勝る安心感を築くコミュニケーションはないからです。
メモによる伝言は極力避け、たとえ本人が部屋から出ないにしても、部屋の外から直接声をかける事が必要です。
そして、肯定的なメッセージは、あまり安易に口にしすぎない方がいいです。
肯定なメッセージは、接し方や態度などといった、言外に思いを込めるような形で伝えていく事が望ましいです。
早期対応という点から考えると、初期段階で家族だけが専門家に相談するということはあってよいです。
しかし、その場合は、家族だけで相談をしていることを本人に伝えない方が良いです。
本人に受診が知れると、傷つける可能性があるからです。
初期の段階では登校について触れないとしましたが、
不登校についてそっとしておくだけでは、
本人と家族の腹の探り合いになり、コミュニケーションは深まりません。
そのため、いつかは、学校に行けない理由について、
本人の気持ちや家族の心配を話し合う事が必要となります。
話あうタイミングは、家族が“不登校のメリット”について考えられるようになる事が目安です。
それがなければ、登校の話をした時に家族による説得に変わってしまうからである。
家族がメリットを考えられるのであれば、本人と家族で時間を持ち、
叱咤激励ではなく「行けなくなった理由」「どんな事が辛いか」「親にどうしてほしいか」などについて尋ねていきます。
それによって、本人・家族の中で、今起こっていることを明確にし、
本人に自分の立場についてできるだけ具体的なイメージを持ってもらう事ができます。
そのような家族関係の先に本人が社会につながる勇気を持つチャンスは巡ってきます。
【社会的支援】
再登校はまずの目標にしないと家族支援のところで述べました。
しかし、再登校をするメリットがあるのも事実です。
発達心理学の面から考えていきます。
思春期の子供達は、“家族以外の他者との交流” の中で、
自分という存在が他者とどのように異なるのかを学び、
アイデンティティーを確立する事ができます。
よって、家族以外の他者との交流は心の発達において重要な役割を果たします。
日本では、思春期の子供たちが他者との接点を持つのは学校以外にはほとんどありません。
なので、学校は思春期の子供たちにとって “対人経験” をする場所であり、
他者との接点を持つために必要な場です。
そのように考えると、社会的支援の目標は見えてきます。
いかに、“家族以外の人との交流する場を作るか”です。
以下利用リソースの一例です。
①部分的な登校の方法
・スクールカウンセラーの活用
②社会リソース
・教育センター
・適応教室
・民間の支援組織
・家族会
【さいごに】
以上、システム論に基づいた子どもの支援について述べてきましたが、いかがだったでしょうか。
さいごに、本人を取り巻く周囲の方にとって大切な心構えを述べて終わります。
不登校支援は、本人を学校という水場まで連れていくことまではできるが、最後に水を飲むのは本人である事です。
本人に無理矢理水を飲ませることはできませんし、逆に本人が拒否することも権利になります。
ただ、水場まで“どのように付き添っていくか”がとても大切です。
少しでも不登校支援に関わられる方の参考になれれば嬉しいです。
【参考文献】
楢林理一郎「ひきこもりに悩む家族への援助」ぎふ精神福祉
団士朗「不登校の解放」文藝新春
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